第27話 モブと貴族あらざる者

>> ロー


「遅いな?」


騒がしいエステルちゃんが、まだ帰ってこない。

いつもなら、お腹を減らして飛び込んでくるのに。

いや、遅くなる事はあっても、連絡は欠かさなかったのに。


ん。


来訪者?


ベルがなる。

エステルちゃんであれば、自分の家でもあるので、ベルは鳴らさない。


「……誰だ?」


門のところにいたのは。

超美少女。

ゴルファの言うところの、エステルちゃんと同じ、SSR美少女。


「あれぇ、どうしてエステル様のぉ別荘にぃ、冒険者の方が住んでおられるのですかぁ?」


「この家は、俺が貰った家だ。君は?」


法的手続きとか既に終わってるしな。


「私はぁ、エステル様の親友ですぅ」


学友か。

親友かどうかは別にして。


「エステル様はぁ、今、親友のサーラちゃんを助けようとしてまして。大変忙しくされているのですぅ」


……なるほど、伝言か。

使い魔で済むだろうに。


……いや。

俺がここに住んでいるのを知らなかったみたいだし。

どういう事だ?


「それでぇ、私も手伝おうとしたのですがぁ、断られまして」


「……そ、そうか」


エステルは超エリートだからな。

こんなぽやぽやした女が手伝っても、邪魔になるだけだろう。

俺に連絡する余裕もないみたいだし。


「それで、抗議に来たんですぅ。エステル様を呼んで下さぃ」


抗議って……


「エステルならまだ戻ってないよ。何か忙しくしているのなら、まだ何かやってるんじゃないか?」


「それではぁ、中で待たせて貰っても良いですかぁ?」


いや、信用できるかっ。

そもそも、本当に親友かどうか分からん。

学友ではあると思うが。


「申し遅れました。私はぁ、ビルギットと申します。貴方が、エステル様が仰っていた、ご主人様ですね?」


「……ご主人様……そう呼びたいと言っていたのは確かだが、エステルちゃんは学園で俺の事をそう言っているのか?」


「流石に、公言はしてないですよぅ?親友の間でだけ、話してくれてます」


……確かに、ある程度は親しいのかも知れない。

まあ、中に入れて、見られて困るものはないし。

アレは常人には見つけられないし。

まあいいか。


「良いよ。入って構わない」


「お邪魔しますぅ。ここに入るのは久しぶりですねぇ」


ふむ。

確かに、慣れている雰囲気だ。

親友というのは本当なのだろう。


「あー、美味しそうなお菓子ですね!」


目を輝かせて、テーブルの上のおやつに向かって走る。

……まあ、構わないか。


「このままだと無駄になりそうだしな。丁度いい、お茶にしようか」


「ありがとうございます!んんん、美味しい!」


おやつをぱくつき出す。

エステルちゃんのにじみ出る上品さとは違い。

元気な女の子という感じ。


「君はアカデミーの学生という事だが。貴族ではないのかな?」


「ですです!私やサーラちゃんは、貴族じゃありません!サーラちゃんのように、豪商の娘とかでも入学できるんです」


なるほど。

多額の寄付とか。

一定の地位とか。

そういうものがあれば、か。

あとは実力、か。


この娘は、当代で成り上がった商人の娘かな。

仕草が、上流階級のそれではない。


「サーラちゃん?に何があったんだ?」


「んーんと、詳しくは、エステル様から聞いて下さい。部下に裏切られて、莫大な借金を背負わされて、家がピンチで。そこに、国で一番の豪商がつけこんで、サーラちゃんをお嫁さんにって!」


「……それは大変だね」


「はいぃ!それで、お金を稼ごうとしているみたいです!ご主人様に手伝ってもらうっておっしゃってました!」


「……俺で手伝える内容かどうか分からんが」


ビルギットちゃんは、小動物の様にお菓子をぱくつく。


「むむむ……美味しいですですっ。流石エステル様が認めた方。あの、あの!私の親衛隊の隊長になりませんか!」


んん?


「親衛隊?」


「はい!エステル様やぁ、サンドラ様は、学園でも大変人気で。取り巻き?の方がたくさんおられるのです」


ふむ。

学生のファンクラブか。


「でもぉ、私には、取り巻きの方はおられなくてぇ」


「そうなのか?結構、美人だとは思うが」


「やっぱりぃ、地位とか、実力とか、重要なんですぅ!」


……まあ、そうか。


「それでぇ、どうですかぁ?私の親衛隊の隊長さんになりませんかぁ?」


「ならないよ」


変な子だなあ。


「むむー、やっぱりそうですかぁ!」


駄目元で言ってみた感じだな。


その後も、色々と話した。

エステルちゃんの学園での様子とか、他の子との交流の事とか、色々と。

親友というのは本当らしいな。


エステルちゃん、遅いな。


「ではでは、そろそろおいとまさせて頂きます!」


「おう。すまないな、エステルちゃん、結局帰ってこなくて」


「お話終わったみたいですし、そろそろ戻ってくると思います!」


んん?


「ローさん、素晴らしい方ですよね!どうですかぁ?お父様に頼んで、お父様のお仕事譲ってもらいましょうかぁ?」


「何でだよ……」


俺は、商人の才能なんてないぞ。

あと、それであっさり自分の仕事譲る奴はいないだろ。


……複数兼務してて、そのうちの1つとかそういう意味か?

どちらにせよ、俺は冒険者。

商売はせん。


「むむ、残念です!」


今度は、親衛隊隊長とやらの時とは違い、何故か本気で残念そうだ。


「気が変わったら言ってくださいね!」


食い下がられた。


「ではでは!!」


勢いよく礼をすると、ぶんぶんっと元気良く手を振り、去っていった。

最初はぽやぽやしているかと思ったが……嵐の様な子だったなあ。

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