第25話 氷女神と反王家筆頭

>> エステル


「サーラさんどうしたのでしょうか?」


今日はサーラさんが休み。

風邪か何かでしょうか?


「実家に戻った後、寮に帰ってきていない。今日お見舞いに行く」


エドラさんがそう告げる。

ふむ。

私も一緒に行こうかな?

エドラに任せておけば良いかな。


「じゃあじゃあ、みんなで行こうかー」


「それはやめて下さい」


ビルギット姫の言葉を、慌てて遮る。

相手は民家である。

ビルギット姫やサンドラ様が押しかけては、大事になってしまう。


「私とエドラさんだけで行きます」


「エステル様もご遠慮下さい」


「!?」


友人なのに、お見舞いを遠慮されるって、どういう事でしょうか!?


「お前は、宰相の娘にして、この国2位の貴族の一人娘という自覚を持て」


サンドラ様が呆れた様な声を出す。

いや、王位継承者であるお二人に比べたら、数段落ちるんですよ、重要度。


「だが、何も動かない訳にはいかなさそうだな。授業が終わるまで待つ事もあるまい。今から様子を見に行くか」


「サンドラ様!?ただの風邪でそんな……」


この人は、とにかく読めない。

何故急に……


あれ。


サンドラ様がゆるりと上げられた手。

その美しい指先。

そこに、ピンクのモヤがかかっている。


これは……妖精?


「気になってこいつに探らせてみたんだが。厄介な事になっているな」


「厄介、とは?」


エドラさんが、小首を傾げる。

暗殺者を自称するなら、情報収集はむしろ率先してやって欲しい気はする。

普段の情報収集は、サーラが行う事が多い。


「サーラの父親が事業に失敗。莫大な借金で家が傾き。そこにラスムスがつけこんだらしい」


ぱりん


教室の隅に氷塊が出現。

壁にめり込みます。


「落ち着け、エステル。この校舎を壊す気か」


「私は冷静ですよ?」


心が冷えているのは自覚しています。


「……冷え切り過ぎです。とにかく、詳細な情報を、直接聞きましょう」


ビルギット姫の言葉。

確かに……いや。


ひょっとして……


「マリンさんなら……」


「マリン・オースディルか?彼女が情報に長けているとは……いや、例の繋がりか?」


流石サンドラ様。

サンドラ様も気付いておられましたか。


「んん?マリンさんがぁ?どうしてマリンさんなのですかぁ?」


ビルギット姫は知らないのだろう。


「……実はマリン様は、暗殺者?」


エドラさんも小首を傾げる。


「あいつは、小遣い稼ぎに身体を売ってるからな。その関係で裏世界に繋がりがあるから、何か知っている可能性もある」


サンドラ様の興味なさそうな台詞に、


「あらあら。そんなの、大変な醜聞じゃないですかぁ」


ビルギット姫が目を見開き、


「……そういう学生がいると聞いた事はあったけれど……何故マリン様の様な方が……?」


エドラ様が、呆然と呟く。

まあ、お金にも地位にも恵まれた上位貴族が、そんな事に関わるとは普通思わないですよね。


私は、マリンさんに近づくと、


「あら、もう耳に入ったのですか?ここでは何ですし、少し外しましょうか」


マリンさんは、私達が聞きたい内容は分かっているようです。

教室から出るように促す。


そして。


人気のない場所に行くと、


「マリンさん、その、えっちい事をしているって本当ですかっ!」


ビルギット姫が、詰め寄った。


「ビルギット姫、今はその事は……」


話が進まないので、ビルギット姫の口を抑える。


「マリンよ。ビルギット姫の事は気にしないで欲しい。今は、サーラの事で知っている事があれば教えて欲しい」


サンドラ様が促すと、


「私が知っている情報は、表面的な物ですが……どこまで聞いてますか?」


「こいつに探らせただけで、ほぼ何も知らないな」


サンドラ様が、人差し指の上に乗せた妖精を見せ、


「サーラの父親が事業に失敗。サーラがラスムスに助けてもらう代わりに求婚を受け入れた」


「ほぼ全て把握しておられますね」


マリンさんが頷く。


……そういえば。


「私がお父様に言ってお金を出してもらえば。サーラを助けられるのでは」


私の提案に、


「それは受けないだろうな。無論、私がお金を出すと言ってもだ」


「何故!」


額にもよるが。

うちの家にとって、そう痛手な額ではない筈。


「サンドラ様やエステル様……王家側の人間がサーラさんに援助すれば。サーラさんは王家側とみなされ……その援助を受けるエドラ様の家が、立場が危うくなりますね」


「!!」


マリンさんの言葉に、気づく。

そうか……だからサーラさんは、私達を頼らず……!


エドラさんも絶句して青くなる。


「でしたらぁ、私がお小遣いから出しましょうかぁ」


「「「「絶対に駄目」」」」


全員の言葉がハモる。


「どうしてですかぁ?皆さんと違って、私なら王家側とか関係ないのではぁ?」


「むしろビルギット姫は、王家の筆頭ですよね!」


「個人的には、反王家の筆頭なのですがぁ……」


第一王位継承者が、悲しそうに呟く。

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