第23話 商人と不倶戴天の敵

「ちょ、困る……」


エドラ様が泣きそうな声を出す。

ここは、村からあまり離れていない。

ここにダンジョンができれば、生活圏を遠ざける必要がでるかも知れない。

ぬるめのダンジョンに安定すれば、良い収入源になるけれど。

近くに神話級のダンジョンが2つもある為、高レベルダンジョンになる可能性は高い。


「ダンジョン化は阻止できるのですか?」


「難しいですね。一度コアが生成されれば、それを破壊すれば消失しますが……瘴気の乱れで生じたダンジョンの場合、再度発生する可能性は高いです」


私の疑問に、エステル様が答える。

最近、エステル様の知識が異常な気がします。

この前も教師が授業中に指名したら、教師も知らない様な事をすらすら答えておられたし。

恐らく事実。

でも、なぜそこまで急に知識が増えたのでしょうか……

いえ、もともと博識だったのですが。


「まだ、ダンジョン化すると決まった訳ではない」


エドラ様が、ぽつりと言う。

うん、きっと大丈夫。

たまたまはぐれが出ただけ。

もしくは、神話級ダンジョンから出てきたとか。


「あ、宝箱だー。やったー」


のんきに、ビルギット姫が、宝箱の発見に喜ぶ。


確定だあああああああ!

当然ながら、普通の森に宝箱なんて落ちている訳がありません。

ダンジョン化しつつある、決定的な証拠。


エステル様と、サンドラ様が、頭を抱えます。


「……いっそ、このあたりを吹き飛ばしてやろうか?そうすれば魔素の流れも変わりそうだが」


「龍脈が影響しているらしいので……地表を焼き払ったところで一緒だと思います。植物系ダンジョンが、岩系ダンジョンに変わるだけだと思います」


「……エドラよ、植物系と岩系、どちらが良い?」


「どっちも間に合ってます……」


エドラ様ががっくりとして言う。

ファムディア地方は、ここ100年程、ダンジョンが豊作なのだ。

必死に管理しているけれど、手が回っていないのが現状。

管理に兵士を動かしたり、冒険者を支援するにも限度がある。


魔物が強い割に、出てくる宝は価値が低い。

そんなダンジョンが大半なので……とりあえず安定したら放置、未安定のダンジョンに戦力を集中させている。

未安定のダンジョンは、定期的に潜らないと、魔物が溢れるからだ。


「ねーねー、エステルー、あけてー」


「はい……ん」


エステル様の魔法で、宝箱が解錠され。

出てきたのは、鉄製の剣。

どこかの冒険者が落としたものを回収したのでしょうか。


「んーいらないなー」


ビルギット姫ががっかりする。

ダンジョン化前の宝箱であれば、良い物が出てくる率は低いけれど。

それにしてもこれは酷すぎる。

このダンジョンも……やっぱり期待できないですね。


--


>> サーラ


「ほう、これはこれは。朝からサーラちゃんに会うとは、今日は縁起が良い」


ラスムス。

お父様のライバル。

……私の倒すべき相手。


「何の用でしょうか?」


「なに、サンドラ様が一緒だから大丈夫だとは思ったが……一応心配しておったのだよ。フェンリル等という神話の住人を探しに行くと聞いたのでね」


どこから聞いたんですか!

気持ち悪い。

背中がぞわぞわします。


「私なんかの心配をされるより、お金を数えている方が楽しいのではないですか?」


そもそも、ビルギット姫とサンドラ様の方が遥かに重要人物。

まずそちらの心配をしては。

……まあ、あの人達強いから、あのメンバーの中で危ないのはやっぱり私なのですが。


「いやいや、愛しのサーラちゃんより心配なものなど、この世にはあるまい」


……この男の嫌がらせは、徹底している。

お父様は、少々の揺さぶりには動揺しない。

そこでこの男がとっている手は……私への求婚。

私の事が大切なお父様には、効果覿面だった。

動揺し、力をつけるため、少々無茶な道を渡る事も多々。

その度に、この男はお父様に、苦言を呈するふりをして……精神的に追い詰め。

……その指摘が、いちいち的を得ているのが腹立たしい。

2点も3点も頷いてしまい……ああもう!


「ふむ、睨まれていても美しい。本当であれば君には笑顔が似合うのだがね」


冷や汗が出る。

息苦しい。

気持ち悪い。


「そうですか。この上なく不快な方が近くにいるので、笑顔を浮かべる余裕はないですね」


「それはそれは……残念」


舐め回すような目。

顔から、胸を、じっとりと視線が下がり……


「それでは、失礼します」


言い切り、逃げるように……いや、逃げる。


「残念。土産話を聞かせて欲しかったのだがね」


くそ……くそ……

逃げた自分を情けないとは思わない。

この男は……危険だ。

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