第22話 商人とフェンリル狩り

>> サーラ


鬱蒼と茂る森。

エドラ様の領地、ファムディア地方の、魔の森。

ファムディア大森林。


奥地に行けば、災厄級の魔物もいるらしい。

そう言われ、恐れられています。


フェンリルを見た。

冒険者ギルドに、そう報告がされました。

そして、調査依頼が出て。


それが、サンドラ様の目に止まり。


「フェンリルとは、相手にとって不足なし。是非我々で討ち取ろう」


休日を利用しての、フェンリル捜索会。

見間違いに決まっているのですが。

みんなでそう指摘したのだけど、サンドラ様に聞き入れて貰える筈もなく。


「あの……サンドラ様、フェンリルなんている筈がないですよ?」


エステル様が、困ったように告げ、


「いいや、私には分かる。この森には、フェンリルがいる。直感だ」


サンドラ様が、豊かな胸を張る。

戦士系なのだから、胸を固定したり、金属鎧で身を覆うのが普通なのですが。

サンドラ様にそんな常識は通じません。


「その……いるかも知れませんが、きっと幹部さんとかで引きこもってます。地上には出てこないですよ」


エステル様が折れました。

幹部さんって何でしょうか。


「むむ……この森には確かにいる筈なのだが……言われてみれば、地上にはいないような……いや、しかし……」


サンドラ様が困った様な声を出す。

納得するんですね。


「エステル、探知の魔法で何とかならないか?」


「やってみますね……おおかみさーん、いませんかー」


エステル様が可愛く魔法を使う。

……本当に雰囲気が変わりましたね。


「……探索は暗殺者の得意分野」


「うむ、エドラも頼む」


「分かった」


エドラ様は、暗殺者の職業を専攻しておられるので。

暗殺者っぽい言動を好みます。


が。


別に適正が暗殺者という訳でもないので、探索や潜伏といった技能は、殆ど才能はありません。

むしろ正当に剣と魔法で戦うのがそれなりに得意だったりします。

戦闘能力自体は、学年4位の実力者です。


探索系の魔道具を使う事は可能ですが。

使ったことはありません。


勿体ないからです。


「東北東の方角に、狼の群れ。ターゲットかどうかは分かりません。少なくともフェンリルではないですね」


エステル様の魔法の練度は異常です。

魔道具よりも遥かに早く、正確に、目的を達します。


「よし、行くぞ!」


サンドラ様が剣を振り上げます。

群れ、かあ。

私の獲物も、残りますかね?


がささ……


木々をかき分け。

ついた先は。


アークウルフが1体。

ホワイトウルフ、レッドウルフ、ウインドウルフ……数体ずつ。

あとはグレートウルフがたくさん。


アークウルフ。

一般的感覚で言えば、災厄です。

A級冒険者のPTでは敵わない。

S級冒険者複数であれば対抗できるけど、油断はできない。

そんな魔物。


「私はボスをやる。他の雑魚は頼む」


サンドラ様の宣言。

いや、ホワイトウルフも十分な災厄なんですけどね?

圧倒的なスピード、回避スキル、猛吹雪のブレス。

個体によっては魔法すら操る。


まあ。


このPTの敵ではありません。


「唸れ、飛天の舞!」


オーラを纏った、サンドラ様の突進。

息をつかせぬ連撃。

アークウルフは対応できず、次々とその刃を身に受ける。


「沈んで下さい」


予め展開してあったのか、今構築したのか。

エステル様が簡単な言葉だけで発動したそれは、ホワイトウルフ達を上から押さえつける。

グレートウルフは放置。


「ほい」


ビルギット姫の、光を纏った斬撃。

あっさりと、ホワイトウルフの首を落とす。

本来であれば、動いているホワイトウルフでも余裕で倒せる実力。

なので、今は力半分で戦っている感じです。


「暗殺!」


エドラ様の剣が、別のホワイトウルフの首を切り飛ばす。

ちなみに、あの硬い皮膚を切り裂けるだけでも相当な強さ。

私であれば、全力で剣を振るう必要があります。


ああ、私何もしてない。


ぐる……


グレートウルフが私に向かって跳躍。



躱し、その首を切り落とす。

一番弱いと見て取ったのでしょうか。

正解です。

ただ、貴方よりは強いです。


「グレイブスピア!」


詠唱が終わり、魔法を発動させます。


ゴガッ


地面から槍が隆起し、数体のグレートウルフが串刺しになりました。

……大部分は逃げました。


「エアロボム!」


続けて完成した、風の魔法を発動。

数体の身体を切り裂く。


「アイスアロー!」


氷の槍で、更に数体のグレートウルフを亡き者に。


「あとは、細かいのだけか」


アークウルフを仕留め終わったサンドラ様が、こちらに来ました。

私の番は終わりのようです。


さんさん


躍るように、グレートウルフの間を駆け……同時に、グレートウルフの首が飛ぶ。

見えないけれど、普通に切って、普通に首を飛ばしているのでしょう。


「これが、このあたりで一番大きな群れだと思います。恐らく、アークウルフがフェンリルに見間違えられたのではないでしょうか」


エステル様が、ゆるい感じで告げる。


「アークウルフも、たいがいな存在だけどね。やっぱりあんた達の感覚にはついていけないわ」


ビルギット姫が、呆れたように言う。

いえ、貴方もソロで倒せますよね。

十分人外ですよ。


「でも変ですね。ここはダンジョンからも離れてますし……こんな災厄級の魔物が出る筈ないのですが」


私の疑問に、


「瘴気の流れが乱れています。ダンジョン化の前兆かも知れませんね」


エステル様がのほほんと言う。

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