第17話 モブと屋敷

>> ロー


1週間もたつと、ある程度の環境が整った。

広場には、シルバードラゴン、ビックボア、ミノタウロスの氷漬けが落ちている。

泉の横には2人で入ってものんびりできる、広い露天風呂が。

草木を組んで、簡易な家も作った。


「ロー様、お茶が入りましたよ」


「有難う」


ちょっと苦い黒いお茶。

茶葉ではなく、豆をすり潰したものにお湯をかけ、濾過して作る。

なかなか香りが良い。

ちなみに、ゴルファ曰くコーヒーと言うらしい。


エステルちゃんの料理も、だいぶ上達した。

する事無いからな。

そろそろ探検に出かけたがっているが、止めている。

最低限の狩りくらいだ。


ちなみに、植物型の魔物も狩ってきて積んである。

このコーヒーの豆も、魔物から採取したものだ。


「魔物がいるから何とかなってますが、動物や魚がいないのが深刻ですね。再構築中のダンジョンってそういうものなのでしょうか?」


「ダンジョンによるし、安全地帯の種類にもよるかな。大きなダンジョンなら、1つの森みたいな安全地帯もあるからな。そういうところは、川に魚がいたり、イノシシがいたりする」


「そっちの方が良かったですね。つい、再構築までの期間の短さで選んでしまいました」


「そもそも再構築のダンジョンに入ろうとする方が間違っているからな?」


「でもでも、こうでもしないと、ロー様とねんごろになれなかったですし!」


「きみとは、ずっと良い友人でいたいと思っているよ」


「……ロー様には全てを見られてしまいましたから」


「1人で着替えができないとか嘘をつきやがって……」


結局、1人で着替えができないとかいうのは嘘だった。

もともと他人を信用できなかったので、ほとんどの事を1人でやっていたらしい。

流石に、料理とかは使用人がやっていたらしいが。


「ロー様は何を作っておられるのですか?」


「クッキーとか言うやつだな。麦をすり潰して、練り上げて、平たくして焼く」


「異世界の知識でしたっけ。その勇者様のおっしゃる通り、ロー様はお店開けそうです」


「ソロでダンジョン潜る方が圧倒的に儲かるからなあ……」


飲食店の収入なんて、たかが知れている。


「あのあの、私のところに永久就職しませんか?ちょうど料理人に空きがありまして。お金はたっぷり出しますよ」


「そもそも、料理は別にそこまで大きな趣味って訳でもないんだよなあ」


一番の趣味は、女遊びかなあ。

きょとん、エステルちゃんと目が合う。

……ゴルファ曰くの、SSRヒロイン。

同じ家で暮らすだけで、十分目の保養になってしまうという。


「……あの……ロー様さえ良ければ……」


頬を赤らめる。

女性って視線に敏感らしいね。


「さ、さて。クッキーを焼こうかな」


俺は世界平和と一時の気の迷いを天秤にかける気はない。

あいつのへそを曲げる訳にはいかないんだ。


早く終われ、再構築。


--


>> ロー


目が覚める。

ぼんやりした目で、外を見る。

ダンジョンが、明るい。


「終わった、か」


不穏な空気が消えている。

さて……ここは何階層かな。


「ふわ……おはようございます」


もうすっかり慣れてしまった、エステルちゃんの布団への侵入。

こっちも開き直って、堪能させてもらっていた。


「……終わっちゃったんですかあ?」


残念そうに呟く。

ようやく終わったんだ、残念そうに言うな。


「これで契約は完了だな」


……


そういえば、報酬ってどうなるんだ?

あまり話していなかった気がする。


「仕方がないですね。予想以上の働きでしたし……報酬は色をつけさせていただきます」


一応くれるらしい。


何にせよ。


特別な期間は終わった。

外に出れば、人目もあるし、エステルちゃんも普通に戻るだろう。


--


>> ロー


「……マジか」


「はい。これが今回の報酬です」


エステルちゃんの別荘。

結構な好立地にある、屋敷だ。

それをくれるらしい。

……いくらだ、この屋敷。


「どうせ使ってないものなので。有効活用して下さい」


「まあ、くれるなら貰うが……」


お金持ちの金銭感覚には、庶民はついていけん。


「私もここに住むわけですし」


「やっぱりいらない」


「酷いです!?」


「というか、あれは再構築中のお遊びだろう?外に出れば、きみも立場があるし、人目もある」


「……このお屋敷は、使って下さい。その上で、できればこのお屋敷に私も住まわせて欲しいです……が、どうしても駄目なら諦めます。私は自分の家に戻ります」


「とにかく、一緒に住むのは駄目だ」


これ以上一緒にいたら、自分を抑えられるか疑問だしな。

良好な友人関係を守りたい。


「……分かりました。私は家に帰って、この命を絶ちます。貴方は何も感じなくて大丈夫です」


「ちょっと待とうか」


何を言った、今。

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