第15話 モブと肉

「肉とか欲しいですね……取ってこれないのでしょうか」


「安全地帯から出るのは危険だな。地形が組み変わるリスクはあるし……魔物も、異常に強化されたものとかが出る可能性がある。ダンジョンマスターがいれば、凶悪な幹部に出会う可能性もあるし……逆にいなければ、ダンジョンマスター候補の凶悪な魔物が生まれていたりする」


「ダンジョンマスター?というのがいるかどうかで、変わるんですね」


「ダンジョンの成長段階で変わってくるな。最初はいないんだが、ある特定の段階までくるとダンジョンマスターを選んで管理されるようになるらしい。移行期のダンジョンは不安定だから、色々大変らしいぞ」


「確かに、新しいダンジョンでは、魔物の大暴走スタンピードが起きたりしますね……ある程度昔からあるダンジョンでは、管理が行き届いていて、上手くコントロールできますけど」


「成長速度も変わるからな。このダンジョンは結構調査が進んでいるから、恐らく安定期は過ぎている。ダンジョンマスターもいるんじゃないかな」


「下手に刺激すると、幹部の魔物をけしかけられて危ないという事ですね……」


超巨大ダンジョンの幹部ともなれば、魔王をも凌ぐ奴がいる。

それでもゴルファには敵わないけど。


このダンジョンであれば、そこまでではないと思う。

時々何故か話題に出る、ゴールドドラゴンよりは強いかな?


「では、気をつけていきましょう」


「行くのか……」


仕方がない。

まあ潜伏スキルを使いつつ、いざとなったら襲撃スキルで何とかなるか……?

幹部クラスなら無理。

その時はゴルファを呼ぼう。


潜伏スキルを発動。

壁際をゆっくりと移動する。


「魔物の姿が見えないですね」


「再構築中は、魔素から作られる魔物は分解されてたりするからね。一部の強い魔物だけが残されている。そういった奴は、知恵がない奴であれば小部屋で生きつなぎ……知恵があるやつは歩きまわっていたりするな。更に上位になれば、コアに呼ばれてダンジョンマスターになったり。ダンジョンマスターが既にいるなら、幹部としてコアの部屋でくつろいでたりする」


「魔物もくつろぐのですね……」


「まあ、再構築中は、肉が取れるような魔物はのぞめないかな──」


ん、いるな。

この気配は……シルバードラゴン。

ゴールドドラゴンには力が劣るものの、十分な脅威。

しかも、強化されている可能性がある。


「美味しそうな獲物がいますね」


「いや、エステルちゃん。悪いけど、俺の手には余る魔物だ。見つからないようにやり過ごそう」


「大丈夫ですよ。これでもアカデミーで上位の実力です」


いや、介護されてるだけだと思うよ。

確かに、さっきの細かな魔法の行使には驚いたけれど。


「シルバードラゴンってだけでも強力なのに。更に強化されている可能性がある。外のゴールドドラゴンをも超えてるんじゃないかな」


「ゴールドドラゴンなら、課題のゴールドドラゴンは私がとどめ刺したんですよ」


「ほう?」


「他の方に眠らせて貰って、私が一気に」


「ふむ……無抵抗にお膳立てされたとは言え、ダメージを与えるだけでもそれなりの実力だね」


「1人でも倒したんですけど、ちょっと死体が悲惨になりまして。素材としての価値が落ちたんですよね」


「!?」


1人でゴールドドラゴンを倒す?

そんな馬鹿な……


「今回は肉を取れれば良いので、気を使わなくて良いですね」


……まあ、危なくなったらゴルファを呼ぶか。

ついでにダンジョンから出してもらおう。


シルバードラゴンに近づくにつれ。

その強さが肌で感じられる。


ああ、だめだこいつ。

戦って良い相手じゃない。


とはいえ、エステルちゃんも聞かなさそうだし。


連絡用の水晶に手を伸ばす。


「唸れ、煉獄の槍!吹き荒れろ、蒼き刃!」


エステルちゃんの手に瞬時に炎の槍と氷の刃が出現。

シルバードラゴンに飛び、その翼を切り裂く。


慌てて抵抗を試みるシルバードラゴン。

その頭を、一瞬にして距離を詰めたエステルちゃんが、杖ではたく。


ごあっ


シルバードラゴンが吹き飛び、


「切り裂け、翠の風よ!」


更に胴体に3つの斬撃が走り。


ざんっ


シルバードラゴンの頭に、エステルちゃんの杖が突き刺さる。


「終わりです。ゴールドドラゴンの方が強いですね」


「……アカデミーで上位……?トップ……?」


マリンちゃんの比じゃない。

戦女神。

その言葉が相応しい。


「いえ、戦闘能力で言えば、トップのサンドラ様には遠く及びません」


遠くって。

流石にゴルファより強いって事はないだろうけど……


「学科と杖術、魔術に関しては私の方が勝っていますので、総合成績では2位ですね」


「……す、凄いね」


「……ひょっとして、か弱い女性や、学のない女性が好みでしょうか……であれば、今から努力しますが」


「いや、優秀な女は好きだよ。いや、そういう話ではなく」


どうしたものか。


「とりあえずこれだけあれば良さそうですね。安全地帯に戻りましょう」


「そうだね」


ドラゴンの肉は、結構美味しい。

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