第14話 モブと米
>> ロー
朝。
昨日の夜は、意外と寝付きが早かった。
添い寝していないと起きそうになるので、ずっと添い寝状態であったが。
……若干身体が痛い。
あのテントで2人は狭い。
「ふわ……」
寝ぼけ眼のエステルちゃん。
「あふ、おはよーございます」
睡眠を取ったからだろう。
目つきの険しさやクマも取れて……可愛さが更に増している。
どこまで行く気だ……
「よく眠れたか?」
「はい!12年ぶりくらいに、ぐっすり眠れました!もうローさんは手放せません!」
「……よく眠れたらしいね」
何?
誘拐以来ずっと不眠だったの?
ダンジョンの再構築は既に始まっている。
が、何か音が聞こえる訳でもない。
全くの無音だ。
本来のオアシスとかであれば、虫の音、風で木々が揺れる音……結構音がするものだが。
その音もない。
緑の匂いは、かなり強い。
人気のないダンジョンでは、一般的な景色。
昨日感じていた恐怖感は、消えた。
ダンジョンが拒むのを止めたのだ。
歓迎されている訳でもないが。
「それでは、朝ごはんを作るよ……食事を作るのは交代制にする?俺がやった方が良い?」
「料理はした事がないですね。でもでも、やってみたいです!後で教えて頂けますか?」
まさかの料理教室。
まあ、時間は残念ながらたっぷりあるから、構わない。
「じゃあ、一緒に作ろうか。簡単な料理で」
大きく伸びをして。
エステルちゃんも真似して伸びをしている。
……可愛いなあ。
「まず薪を組んで、火をつけて……やった事はあるよね?」
「火をつけるのに薪を使った事はないですね」
この娘何を言ってるの?
野営とかの経験は無いという事か。
「それで、お湯を沸かします」
「池の水を汲んでそれを沸かすんですね」
だから感心するポイントではなく。
「やってみる?」
「えっと……とりあえず鍋にお湯を沸かせば良いでしょうか?」
いったん鍋のお湯を捨て、鍋をエステルちゃんに渡す。
「うん」
簡単な事でも経験を積めば、少しずつできる事は増えるよ。
「まずお湯を」
!?
空中からお湯が出て、鍋に入る。
「下に火を」
ぼっ
何もない地面が燃え?
鍋が沸騰する。
これは……魔法?
無詠唱、無動作で?
「エステルちゃん、魔法が使えるの?」
「……言ってませんでしたっけ?この格好は何だと思っておられたのか……まあ、可愛いと思って着ているので、趣味は入ってますけど」
「昨日、明かりの魔法も、浮遊の魔法も使えなかったよね?」
そういえば、警戒の為に攻撃魔法は用意してたな。
あれのせいで他のを使えなかった?
「いえ、昨日は……寝不足で朝からふらふらでして……おまけに、心臓が張り裂けそうなくらいどきどきしていまして……とても魔法が使えなく」
寝不足のせいだった!?
「あと、色々できるロー様に見惚れていたのもありまして」
えっと……
ま、まあとりあえず。
ただのおかざりお嬢様かと思ってたら。
流石、王立アカデミーの学生。
それなりに魔法は使えるようだ。
すげー。
「まあ魔法を使わないのも経験だ。今は湖の水をすくってきて、薪でお湯を沸かそうか」
「はい」
薪が自動で組み上がり。
ぼっ
炎上する。
うーん、この。
「手で薪を組んで、着火装置で火を付ける」
「は、はい」
はっと気づいたように、再度手で薪を組み始める。
かまどの格好に、石を置いてやる。
「こうやってこすって……わ、煙が出ました」
「後は草に火をつけて……で、小枝を燃やして……」
「火が起きました!他の娘がやっていたのは見たことが有りましたが、自分でやったの初めてです!」
学生全員が魔法に頼り切りという訳でもないんだな。
まあ、剣士系の学生もいるだろうし。
水を汲んできて、火にかける。
「まずは味噌を染み込ませた芋の蔓を入れて」
「味噌ですか?芋の蔓?」
ちなみに、味噌は俺がゴルファの依頼で再現するまではこの世界になかったものだと思う。
芋も、食用の認識は無かった。
この反応は当然かも知れない。
「とってきた薬草を煮る」
昨日とってきて乾燥させていたものだ。
生の物は、
食材も入れておけるのだ。
「……一般的なハーブもありますが……初めて食べる植物もありますね」
「便利な鑑定能力を持つ友人がいるからな。そいつの趣味でもあるから、色々試したんだ」
ゴルファの故郷の料理を再現するというのが目的だったりしたしな。
それに関しては俺も美味しい思いをしたので、恩に着せたりはしない。
「で、米を入れて」
「米ですか?」
これもこの世界では一般的ではない。
似た植物をゴルファが進化させ、あとはそれを細々と育てているのだ。
種籾の状態で保存してあるから、貯蔵がなくなったらまた作る。
いつか大規模に作りたい、とゴルファが言っていた。
こっそり流して一般流通させたいらしいが、目立ちたくないので、悩んでいるらしい。
エステルちゃんが気に入れば、広めて貰えば良いんじゃね?
「後は、待てば出来上がる」
「……なかなか真似するのが難しそうですね」
「確かに……昼は、もっと一般的な食材で作ろうか」
思えば、異世界食材が多いな、俺の料理って。
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