第12話 モブと告白

ぼっ


松明に火を灯す。

何で魔法職がいるのに、自前のアイテムを使っているのだろうか。

察するにこのお嬢様……周りがカバーしてただけのぽんこつだな。

身分が高ければ、金と周りのサポートで、高い順位も取れるという事か。

マリンちゃんの方が遥かに強い。


エステル様が、抱きつく力を強める。

深い闇が、恐怖を引き立てる。


カチリ……カチリ……


あの音は……骸骨か?

多分倒せるとは思うが、危険な橋は渡るべきではない。

どれだけ強化されているか分からないのだから。


壁を伝い、ゆっくりと移動。

くそ……あとどれだけの時間が残っている?


再構築が始まれば、安全地帯への道が途絶える可能性がある。

こうなれば、自分の運と勘に頼るしか……


「怖い……です……」


「大丈夫ですよ」


俺は、明るい声で告げる。

自信に満ちた声。

正直に危険な状況だと告げても、怖がらせるだけだ。


「嘘ですよね」


「こんな時くらい、その看破はたらかせるのやめようぜ?」


俺はあんたの為に嘘ついたんだよ。

罪のない嘘って言葉を知らんのかね。


お。


「助かりました。安全地帯です」


「……嘘じゃないですね」


しかも、泉つき。

泉の周りに、森と、広場。

流石に魚や動物はいないけれど。


3週間は持つだろう量の保存食を、バックパックに詰めてある。

水さえあればしのげる。


さて。

野営の準備をしても良いのだが。

まずはお嬢様のケアだな。


「エステル様、安全地帯についたので、着替えて大丈夫ですよ」


「たすか……った……?」


「はい、助かりました」


しばらく出れないけど。


ぎゅ


エステル様が再び抱きついてきた。


「怖いんです……駄目なんです、私……」


「大丈夫です。俺がついてますよ」


「本当ですか……一人にしないですか……」


「本当です。ずっと一緒にいますよ」


臭うから水浴びて着替えた方が良いですよとか言わない。

お湯沸かしてあげようかな。


「ごめんなさい。私、本当は……」


告白か。

ここに来る気は無かった、俺を試そうとしていた、とでも言うのだろう。

……抵抗されても、案外勝てたんじゃないかという気がしている。


「大丈夫、もう分かっていますよ。全部話してください」


話したほうが楽になる事もあるだろう。


「……お見通しだったんですね。分かりました……全てお話します」


エステル様が頷く。


「実は私は……臆病なんです」


おや。


「生来のものではあるのですが……幼少期に誘拐、監禁されまして。3ヶ月もの間、ずっと暗い部屋で……それ以来、悪化してしまったんです」


「それは……」


「普段から攻撃的に振る舞っているのも、自らの弱さを隠す為。他人に比べられるのが怖い、他人に評価されるのが怖い、他人に意識されるのが怖い、一人になるのが怖い……何もかも怖くて……だから、誰も近づけさせないようにしていたんです」


「なるほど……そうだったのですね」


それは予想していなかった。


石で竈門を作り。

木切れを組んで火をつけ。

鍋に泉の水を汲み。

火にかける。


火は良い。

心を落ち着かせる。


「マリンさんの発表を聞いて……誰かに助けてもらっていると気づいて……ずるいって思ったんです。私も、ちやほやされたいと思ったんです。嬉しい事をたくさんして欲しいって思ったんです」


……羨ましかったのは事実なのか。


「それでローさんに出会って……運命を感じたんです。この人はきっと、私を助けて下さると」


「いや……そりゃまあ普通にしてればそれなりには……でも、何もダンジョンの再構築に……」


「だって、狭い空間で強制的に数週間一緒にいられるんですよ?仲が進展するチャンスじゃないですか」


「計画通り!?」


超合理的だった!?


「でも、ここまで怖いとは計算違いでした……もう嫌です……」


「だから精神強化しないと辛いと……まあ、再構築が始まれば大分ましになるけどね」


とすると、誘っていたのは、あれ結構本気だったのか……?

なんか嘘を言ってる雰囲気じゃないんだよな。


「ともかくそれで……今日を楽しみにしていたのですが」


楽しみって雰囲気じゃなかったけどね。

敵意しか感じなかったし。


「暗い洞窟で、抵抗できず、ローさんに……といった妄想や、優しく囁かれたりといった妄想で自慰を繰り返した結果、夜も眠れず」


「ストップ。言わなくていい事まで言ってるよっ」


「あのっ……全てを語るのは大変恥ずかしいのですが」


顔を真っ赤にしている。

そりゃ恥ずかしいだろうね。


「その恥ずかしさが、むしろ性的興奮を感じまして」


「ストップ」


目が血走ってる。

完全にハイになっている。

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