第10話 モブとマライア
「それで、言葉遣いと卑猥な言葉はどうなったんですか」
「言葉遣いはともかく、卑猥な言葉はかけませんけど!」
なぜ卑猥な言葉にこだわる……?
そこまで男に信用がないのか?
「偽装工作の件ですが」
「ああ、ちゃんとしてきましたか?」
今から、再構築直前のダンジョンに入る。
そして、再構築完了までダンジョン内ですごす。
これは秘密裏に行う必要がある。
事前にばれたら絶対に止められるし、事後にばれても厳重注意されるだろう。
で。
俺の様なごろつきが数週間いなくても誰も気にもとめないが。
エステル様の様な学生、そして高貴な身分の者が居なくなれば、1日と保たず騒ぎになる。
その為、長期の調査等、偽りの行き先を伝えておくよう依頼した。
「はい、マライアの遺跡に長期調査をすると伝えてあります」
「また、遠くを選びましたね……」
「ですので、今のような人目につかないところで貴方に襲われたら、私は抵抗もできず、純血を散らされるでしょう」
「するしない以前に、そもそも私では貴方に勝てないですよね」
何となく分かってきた。
この女、さっきからこっそりと、攻撃魔法を待機状態にしている。
男は獣だと証明する為、俺に手を出させようとしているのでは。
恐らく、俺がふらっと手を出した瞬間、痛い目にあわされるだろう。
「いえいえ。案外、股ぐらの大剣を抜き放った瞬間、私は腰が抜けてしまうかも知れないですよ」
「俺はレンジャーなんですが。大剣使いに見えますかね」
とりあえずかわしておく。
「えっ、いえ、その今のは……男性器を露出させたら、私はそれに気を取られて抵抗を忘れてしまうという意味でして」
具体的に説明しないで貰えますか。
「貴方様の平民像はどうなっているんでしょうね……」
こんな調子で数週間すごすのか……?
いや、きっと直前で方針変更する筈。
恐らく、ダンジョンの再構築を見たいというのは嘘。
それまでに俺が手を出すと思っているのだろう。
いよいよ再構築が始まる前に、方針を転換する筈。
……俺を放置して自分だけ逃げようという計画だと嫌だな。
生き残っても、それはそれで何か言われそうだし。
--
>> ロー
「もっとくっついて下さい。気づかれます」
「大丈夫ですよ。それより、お静かに」
岩陰に隠れて、帰路につく冒険者PTをやり過ごす。
エステル様の姿を見られるのはまずい。
マライアの遺跡とは、方向が違うのだから。
いちいち覚えていないとは思うが。
念の為だ。
「それでは行きましょうか」
手を差し出す。
ぎゅ
うわ、柔らかい。
それに、温かい。
素直に俺の手を取り、岩陰から外に出る。
「もう大丈夫でしょうか」
「はい。しばらくは冒険者PTに出会わない筈です」
一応、職業柄、気配察知は得意だ。
またしばらく歩いたその先。
「これが……ダンジョンですか?随分と入り口が狭いですね」
「再構築が近い証拠ですね。だんだん入り口が狭まる。同時に、中には脱出用のポータルが増える」
「不思議な話ですね。閉じ込めて溶かした方が、ダンジョン的には美味しい筈なのに」
「ダンジョンにもルールがあるらしいですね。入り口から出口まで繋がってないといけないとか、隔離された空間を作ってはいけないとか、安全地帯を作らないといけないとか。その内の1つが、再構築の際は侵入者を外に出すというもの……冒険者側の過失で取り残された場合は、例外となるとか」
「初耳です……でも、確かに言われてみればそうですよね」
ゴルファの豆知識は侮れない。
最高学府の教授陣すら知らないであろう事を、べらべら喋っている。
「精神強化は使えますね?支援魔法があるならそれも併用して下さい」
「このダンジョンには、ゴースト系の魔物は出なかった筈ですが」
「いえ。再構築前のダンジョンは、恐怖や不安感といった感情にはたらきかけて、外に出たくさせる空気が充満するので」
至れり尽くせりの安全装置。
だが、それに意図的に逆らう場合は、ただの障害となる。
「分かりました」
……分かったのだろうか?
魔法を使ったようには見えないのだが。
「隠密スキルを使います。なるべく離れないで下さい」
「はい」
ふに
背中に抱きついた!?
柔らかいものがっ。
露出の多い魔道士服で密着されると……
「接触しなくても大丈夫です。半径1メートル以内にいて下されば」
「不安なので……」
俺のスキルに信頼がおけないと!?
レンジャーとしての能力は結構評価高いんだけどな!
「あの……」
「どうしましたか?」
「性的に興奮しませんか?」
「冒険中はしませんけど!?」
正直このダンジョンの1階層くらいであれば余裕だが。
だからといって、ダンジョンで気を抜く気はない。
稀に低階層から強い魔物が上がってくるしな。
階層補正で弱体化はするけど。
「……性的に興奮していないのは嘘なのに、手は出さないんですね」
……偽証看破のスキルでも持ってるのかね、このお嬢さん。
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