第9話 モブと屑

>> ロー


という訳で、何かあったら助けてくれ。


「親友の頼みだからな、やぶさかではない」


ゴルファが鷹揚に頷く。

事情を話し、命綱を確保。

ちなみに勇者お手製の信号弾を使う。

なんか異次元にいても通じるらしい。


「しかし妙だな」


ゴルファが小首を傾げる。


エステルの変な対抗意識だな。確かに、貴重な体験では有るが……価値がある物でも無いと思うが。


いや、ゴルファ主催の再構築中ダンジョン見学ツアーなら超貴重だと思うけどね。

あれ下手したら人類史上初じゃないか?


「そっちじゃない。エステルちゃん自身の事だ」


ん?


「以前話したことがあるだろ」


9割以上聞き流しているからな。


「俺の異能ユニークスキル預言ザ・ワーズだ」


魔王を倒すとか、美女と結婚して長男が生まれるとか、そういう奴だよな。


「うむ。俺の人生を予言されたものだ。俺が魔王を倒せる証でもあるわけだが……大事なのは、美女との結婚の方だな。その相手のうち1人が、そのエステルちゃんという訳だ。宰相の娘と名乗っているのだから、間違いない」


なるほど。

SSR美少女と普段から言っているだけはある。

確かに美人だったからな。


「美人なのは良いのだが……問題は性格だな。俺の嫁になるものは、家事万能、良妻賢母、人格的に問題があるなどあり得ない……攻撃的で人を見下すよ様な屑を、俺が許容する筈がないのだが」


大丈夫、お前は十分屑だよ。


「お前の隠蔽スキルには時々驚かされる。本心を偽れない筈の俺の神眼の能力を超え、尊敬する俺に対し毒を吐いているような思考をできるのだから」


なぜそこだけいつもポジティブに、自分の能力の方を疑うんだろうね。


「まあ、今後お前との関わりの中で、改心して、本物のSSRとなる筈だ。もっとも、お前に惹かれないか不思議なんだが……流石に俺でも、親友からNTRする気はないのだが」


ゴルファは、尚も訝しげに首を傾げた。

えぬてぃーあーるって何?


--


>> ロー


「待たせましたか」


待ち合わせ時間より前に、エステル様は現れた。

……いや、絶対待たされると思ったのに。

良かった。

もう少し遅れてたら、俺の方が遅くなって、不敬とか言われてた可能性がある。


「今来たところです」


「嘘ですよね」


……


「ほぼ待っていません」


「……本当のようですね」


え。

嘘とか看破できる系の人?


それにしても。


「この前も思いましたが。エステル様は本当に美しい方ですね」


「当然でしゅ」


軽く流される。

まあ、事実を述べただけなので、嘘ではない。

嘘が分かるというのなら、少なくともマイナスの印象は与えないだろう。


「時間が惜しいです。無駄口を叩いていないで、さっさと行きますよ」


颯爽と歩き出す。

……滑るように、優雅に、疾く。

流石王立アカデミーのトップクラスの実力。

格好からして純魔法系だと思うのだが。

身体能力も相当なものだろう。


程なく、街を出て。

街道を進む。

途中までは街道を道なり。


馬車を利用するかとも思ったが、歩きを提案された。

まあ、エステル様の移動補助魔法、俺の補助スキルの効果もあり、それなりの速度で移動できている。


「疲れないですか?」


「無礼ですね。私は身体能力も優秀ですから、このくらいであれば回復力のほうが高いです。むしろ、疲れたら遠慮せず言いなさい」


補助魔法の効果だろう。

いつもより疲労は少ない。


「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


エステル様は、不機嫌そうに、


「その言葉遣い、不自然で気持ち悪いですね。普段通りに喋って大丈夫ですよ……下賤の者は、乱暴な言葉使いに加え、女性を見れば半分くらいは卑猥な事を言うのでしょう」


「違いますけど!?」


乱暴な言葉使いはともかく、後半がおかしい。

その手のプレイの時に経験した事はあるが、普段は嬢との会話でさえもそんな酷い事にならない。

人にはよるけれど、嬢にも気に入られたいというのが男の欲望だ。


エステル様は目を見開くと、


「な……それは、私には魅力がないという事ですか?」


エステル様が立ち止まり、手をぱたぱたさせる。

格好は、露出が若干多い、魔道士の服装。

そういう目で見れば、性的魅力もあるかもしれないが。

そもそも、魔力を多用する職は、大気と触れる肌の面積を増やす必要がある。

いちいち変な目で見ないのは、冒険者のマナーだ。

見るけど。


「……暑いですね」


ふと、エステル様が呟く。

まあ、確かに暑いな。


「これも脱いでしまいますか」


おもむろにローブを脱ぐ。

腕やふとももが露出した、魔導着が顕になる。

胸も大きく開いている。

ちょ……


「エステル様。脱がれるのであれば、ダンジョンに入ってからにして下さい。日の光の下でローブを脱げば、肌が焼けます」


「結界で弱めているから大丈夫です」


何でローブ着てたの!?

人目に肌を触れさせない為なら、何で今脱いだの!?

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