第7話 モブと衝撃の真実

>> ロー


「お兄様!」


マリンちゃんが、抱きついてくれる。

学友を紹介したいから、そんな理由で、誘われたのだ。


まあ、前回のアフターで思いがけず儲けが出たので、そのお礼かな?

俺にとっては、ご褒美の連続だ。

鎮魂祭は放置予定だったしな。


「マリンちゃん、会いたかったよ」


マリンちゃんを抱きしめる。

柔らかい。


今日はいつもの、学生のコスプレだ。

学友、という設定の娘も、同じく。

表情が硬い、というか若干怖いのは、慣れてないからか?

新人の娘なのかな?


マリンちゃんの笑顔や雰囲気、そういったものから、客受けするのはマリンちゃんの方だろう。

が、もう一人の娘も、素質はある。

恐ろしい程に美人だ。

胸の大きさは若干控えめだが……


「この方は、エステル・アルヴェーン様。王立アカデミーの学科の主席で、総合成績も2位。アルヴェーン家の長女であらせられます」


そのアルヴェーンが何か知らないが。

ここは驚く設定の場所なのかな?


「初めまして、エステルちゃん」


「……随分と馴れ馴れしいですわね、庶民風情が」


ちょ。

偉い人設定!?


これは……のらないといけないのかな?


「失礼しました、エステル様。ご機嫌麗しゅう」


「唐突に無礼な対応を受けて、非常に不快ですが」


むむ……


ちらり、とマリンちゃんを見る。

苦笑いだ。


「それで、何か御用でしょうか?お嬢様」


「貴方は……冒険者、と聞いています」


「はい、左様です」


「それで、そこのマリンさんに鎮魂祭の場所を教えましたわね?」


ちらり、とマリンちゃんを見る。

うんうん、と頷いている。

これは話しているという事か。


「はい、私がマリンちゃんに教えました」


「鎮魂祭は、発見次第報告が必要なものです。なぜ自分で報告しなかったのですか?」


「翌日マリンちゃんの課題の手伝いの約束がありましたので。是非ともマリンちゃんに見せたかったのです。それで、報告を遅らせて頂きました。すみません」


ぎろり


エステルちゃんの目が光る。

怖い……


この娘、マリンちゃんの様な、好ましい雰囲気を出す演技はしていない。

が。

強気の女性、という演技はなかなかのものだ。

貴族の令嬢を演じきっている。

この娘を好きにできるとなると、それはそれで興奮するような気がする。

新たな扉というか。


若干胸が残念なのも、細身とか美人さとか、そういう魅力で十分にプラスだし。

この強気な態度が、儚げに許しを乞い、無理やり……うん、本当にやる気はないが、そういう設定で楽しむのはありな気がする。


……と、危ない。

つい、胸や腕、太もも、そういった部分を凝視していた。

エステルちゃんの目が更に険しくなっている。

女性はそういう視線に敏感だと言うしね。


「それともう1点」


エステルちゃんは、俺を睨むと、


「貴方は、マリンさんにお金を払い、不埒な行為をした……相違ないですね?」


言い方!


マリンちゃんの様子を伺うと。

呆れた様な顔で頭を振る。

この新人ちゃん、やりすぎてしまっている感じか。

お客を困らせる程役に入るのはよくない。


「エステルちゃん……令嬢と学生の設定で接客するのは悪くないんだけど。ちょっとやり過ぎだと思うよ」


「なっ……無礼な……というか、設定って何ですか?」


マリンちゃんの顔が険しくなり──ふと、訝しげな顔をする。

ん?


「だから、マリンちゃんと同じで……王立アカデミーの学生という設定で客をとる仕事だよね?」


「設定も何も、私もマリンさんも学生ですよね?」


そう告げつつ見せたのは。

偽造不可、というか偽造したら国家反逆罪で捕まる様なやばい代物。

王立アカデミーの学生証を見せる。


え……


「マリン……ちゃん……?」


「はい、お兄様。何ですか?」


最高の笑顔で、マリンちゃんが小首を傾げる。


「学生……設定……」


「やだ、お兄様、おかしい!私は正真正銘、王立アカデミーの学生ですよ!」


見せられたのは。

エステルちゃんと同じ、学生証。


……ええええええ!?

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