第5話 遊女といたずら
>> マリン
「これは……素晴らしい!ゴールデンドラゴンの牙とは!」
期末課題。
各自素材を探し、学園に提出する。
PTでの探索が認められており、その場合はPT単位で評価される。
ルールとしては、素材を自力で見つける事。
だが、殆どの生徒が有力貴族。
商品購入の不正も、当然の様に横行している。
ドラゴンの牙を納品したのは、学年の成績上位を独占するグループ。
通称、五女神。
有力商人の娘であるサーラを除けば、全員が最上位貴族。
内1人は、第一王位継承者の王女。
他にも、右大臣の娘に、宰相の娘。
まさに、今期は彼女達の為だけにあると言って良い。
そして。
納品した物は、事実、彼女達が獲得した物だろう。
剣聖すら打ち負かした者、教師陣すら敵わない魔道を操る者。
戦闘能力の上位4位は、このグループが占める。
学業等を合わせた総合成績で見れば、上位5位をこのグループが独占するのだ。
別に、構わない。
自分とは違う、輝きに満ちた存在。
ただ。
1度だけでも、彼女達に土をつけたかった。
そんな、些細ないたずら心だった。
だから。
「いや、本当に素晴らしい……だが、他の者は、萎縮しないように。彼女達は特別だ。そう思って構わない。私達教師陣ですら、この五女神には敵わないのだから」
慰めるような声音で、教官が告げる。
「次……マリン・オースディル!また貴方は、ソロでの活動ですか。貴方が優秀なのは理解していますが、やはりソロでは限界があります。今後はそのあたりも課題と思って頂ければ」
教官が、苦笑いして告げる。
「ミスター、ディレクトリア。今回の品には、少し自信がありましてよ?」
そう告げて。
納品したのは……鎮魂の燈。
ざわっ。
周囲がざわめく。
「これは……一体……何処の……!?」
教官の目の色が変わる。
「エカトリアル洞窟ですわ」
「あそこは、今回は鎮魂祭は出なかった筈……!」
「ありましたわ。6階層に、ね」
「6階層だと!?そこまでの下層に鎮魂祭が出た例は無かった筈……」
「事実ですわ。ギルドには、調査資料も納品済ですの。午後には正式に発表されると思いますわ」
鎮魂祭が発見された場合。
ギルドは、直ちに発表する。
理由は……死者と近しい者が鎮魂祭を訪れた際、死者と会話できる事があるからだ。
「むう……しかし6階層か……」
6階層であれば、ゴールド護衛を雇う必要がある。
前回の事故の被害者には、庶民もいた筈。
費用を工面できない者もいるだろう。
事故を起こした本人の親──大貴族であれば、問題はないのだけど。
何やらぶつぶつと考え込む教官。
「先生?後がつかえてましてよ。早く評価頂き、次の方を見て頂きたいですわ?」
「……そ、そうだったな。マリン・オースディル、君の得点は……150点としよう。本当に素晴らしい。世間への影響も考えれば、100点では足りん。迅速なギルドへの報告も、評価できる」
ざわっ
周囲がどよめく。
100点が満点である。
それを超える点をつけるのは、本当に例外的な事だ。
「ありがとうございます、先生」
少し影を落とした笑みを浮かべる。
喜び半分だが、犠牲者を思えば素直に喜べない、そんな表情で。
「それでは、これは解放致しますね」
ざわっ
周囲が再びどよめく。
鎮魂の燈。
邸宅の玄関等に飾り、色を失うまで鑑賞する。
それが良くある使い道。
もう1つは。
一度に力を解放する事もできる。
コウッ
光の奔流が流れる。
光の妖精のダンスパーティーに迷い込めば、こんな感じなのだろうか。
当然、私自身初めて見る。
五女神達であれば、経験あるのかもしれないが。
それは、教官ですら初めてであったらしい。
しかも、まだ新しく、かつ、6階層という異様な深層で見つかった事も相まって。
感動の余り泣き出す学生も多く。
それは、一瞬であったのか。
それとも何日も経ったのか。
光は収まり。
「マリン・オースディル、君はいったい何を……」
「鎮魂の燈は、囚われた魂という仮説もありますわ。早く解放してあげた方がよろしいと思いまして」
「……君という子は……しかし、これ以上点数を上げる訳にはいかん。150点しかつけられない私を許してほしい」
教官が、沈痛な表情をする。
これで、みんなの意識に、強烈な印象を残せた。
この3年間、五女神だけが彩る筈だった歴史。
そこに、1片の、しかし強烈な土をつけられたのだ。
今度、ローさんには、とびっきりのサービスをしなくては。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます