第4話 モブと鎮魂祭

「今度授業で課題があってね?珍しい素材を採取するの、手伝って欲しいの」


マリンちゃんは、王立アカデミーに通う設定だ。

だから、時々授業の課題を手伝うプレイをする事がある。


「勿論、喜んで」


これはアフターの料金が発生するのだろうか?

おねだりで手伝いという事は、どういう形で払えば良いんだろう。

準備代とか?


いや。

贈り物のお礼か。

趣向を凝らしてくれるな。


「ありがとう、お兄様!」


マリンちゃんに抱きつかれる。

高い体温。

良い匂い。


今日は、朝までにしてある。

たっぷり楽しめそうだ。


--


>> ロー


「お兄様!お待たせしました」


マリンちゃんの私服姿。

アフターの時は、自前の制服(何故か王立アカデミーのものにそっくり)を着ていることが多い。

珍しい。


……というか、見た目だけでなく、ポイントを抑えた機能性を確保している。

普通に冒険者としてもセンスがある。

そして、性能的な意味で高価な品。

ガチだ。

学生っぽくないといえばそうだが、王立アカデミーのエリート(学年で総合6位、戦闘能力だけなら総合5位という設定!)なら不思議ではない。


剣を携え、ライトプレートで守り。

つつ、ショルダーやアームのパーツはない。

詠唱が必要なマジックナイト系のコンセプトだ。


「今来たところさ。それで、狙っている素材は何かな?」


さて、ごっこプレイは、何階に行くのかな。

1階とか2階で、こわーい、とか言われて。

抱きつかれて。


で、俺がさくっと敵を倒して、持ち上げられて。


「んーっと……8階層の品なら何でも良いんだけど。できたら階層主のレアドロップが良いかなあ」


ぶふっ


俺のメインの狩り場は6階層。

当然、階層が深くなれば、飛躍的に魔物は強くなる。

8階層でもそれなりには戦えるが……正直、余裕はない。

女の子を守りながら、というのは……


「あ、課題なので、戦闘はなるべく手を出さないで下さいね!お兄様、レンジャーの職業で、補助が得意なのですよね。そこをサポートして欲しいです!」


……縛りプレイ追加。

案外、本当にある程度は戦えるのかも知れないけれど。


……そうか。

1階層あたりで、ピンチになって。

俺が諌める。

そういうプレイだな。

で、俺に惚れ直して、そのまま……


いや、他PTもいるし、ダンジョン内ではまずいな。


「分かったよ」


俺は、余裕のある表情で、微笑んだ。


--


>> ロー


チン


マリンちゃんが剣を鞘に納め。


ばらばら


オークと巨大カタツムリが、細断されて散る。

うそう。。。

強すぎる。


低階層とは言え、シルバー上位……いや、ゴールド級の戦闘能力。

王立アカデミーの5位。

それが本当はどんな実力かは知らないけれど。

十分な説得力が有る。

これが……プロ意識。

学生の演技をするのに、全力だ。


「そこ、足元に未発動の罠。あと、奥にいる、2本の角の兎は、レア素材を持つ事があるので慎重に仕留めて。できれば傷が少なく」


「はーい!……スリープ!」


超高速詠唱!?

しかも凄い威力。

魔法抵抗を持つ筈の、バイコーンラビットをあっさり眠らせる。


俺が刃を入れ、解体。

……外れか。


「持っていないな」


「んー、残念〜」


マリンちゃんが、頬を膨らます。


「やっぱり、8階とかいかないと駄目かなー」


マリンちゃんがため息をつく。

……前の階層で、ロックタートルのレア素材を採取したんだが。

それでは満足して貰えなかった。

どこまでガチなんだ。


--


>> ロー


「凄い……これが、鎮魂祭……」


マリンちゃんが、震える声で呟く。


鎮魂祭。

ダンジョンのイベントフロアの一種。

色とりどりに輝く水晶の野原。

中央には黄金色の大きな水晶。


本当の目的や、由来等は不明だが。

仮説によると、冒険者の大量死を慰霊する為に、ダンジョンが作るらしい。

前回、道楽貴族が多くの冒険者と共にこのダンジョンに突入。

その貴族自身を含め、大量の行方不明者が出た。

今回は、鎮魂祭が出ているんじゃないか、そう噂されていた。


まあ、通常であれば2階層までに出現するので、異例ではある。

6階層で隠し部屋を探すのは、まず安全確保が課題になるし。

隠蔽看破の必要技能も桁外れだ。

探せるのは、俺のようなソロの暇人くらいである。


「この前偶然見つけてね。マリンちゃんに見せれたらと思って取っておいたんだけど……まさかかなうとは思わなかった。良かった」


「お兄様、凄いです!」


ふわ


マリンちゃんが抱きつく。


本当は6階層うろついているのがばれないように、放置しただけなんだけど。


「さあ、マリンちゃん。鎮魂の燈を」


「はい」


部屋の中央にある、黄金色に光る水晶。

魂の結晶と言われている。


マリンちゃんが手をのばす。


ぼうっ


水晶が縮小。

マリンちゃんの手に収まる。

その美しい輝きはそのままに。


同時に。

部屋の美しい水晶のオブジェが、色を失っていく。

やがて、ただの石となるのだ。


収穫した鎮魂の燈は、それなりに高値で売れるが。

30日でその輝きを失う。

また、収穫した場所を聞かれたりするので面倒だ。

浅い階層で見つけたら稼がせて貰うが。

それ目的のPTが最初に徹底的に探すので、基本的には無理だ。


「課題の素材採取、これならどうかな?」


「素晴らしいです、お兄様!」


マリンちゃんが再び抱きつく。

本当に課題で提出したら大事になると思うけど。

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