第3話 モブとあぶく銭
入り口で、漆黒のカードを見せる。
特殊なメガネで見ると、文字が浮かび上がる代物だ。
門番は無言で頷くと、入るように促す。
そのまま受付に進む。
「売りに来た」
「かしこまりました」
ごつい格好の大男は、恭しく頷くと、奥を指す。
部屋に入ると、ゴルファ手製のマジックバックから、素材を出す。
「グリーンドラゴンの牙、爪、キマイラの翼……また、派手に狩られましたね。国内ではないですよね?」
「ああ」
係の者が、品定めしていく。
俺なら、一瞬で殺される魔物ばかりだ。
ゴルファにとっては、野ウサギと変わらないらしい。
狩った場所を聞いたのは、念の為だろう。
国内にいるのであれば、討伐軍の組織が必要だ。
「それと、これを別会計で頼む」
「別会計、ですか?承知しました……ほう、5階層の階層主の魔石ですか。オークションでなくてよろしいですか?」
「末端価格での買い取りで問題ない」
「承知しました」
だいぶ恥ずかしい。
レア素材とは言え、他の素材に比べれば格段に価値が劣る。
別の男が、小袋を2つ持ってくる。
「お確かめ下さい。1つは、神聖銀貨40枚、金貨890枚が入っています。もう1つは、金貨50枚が入っています」
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。
金貨1000枚で神聖銀貨1枚。
神聖銀貨1枚でも、ありえない額なのだが。
流石災厄とも称される魔物達。
「確認した。問題ない」
「ありがとうございます」
男が、恭しく頭を下げる。
「また頼む」
そう告げると、盗賊ギルドを後にした。
--
>> ロー
「受け取れ」
1割。
神聖銀貨4枚だけ貰って、残りをゴルファに渡す。
……俺自身の稼ぎの80倍って何だよ!!
あれが1日、ふと思い立って狩りに行った結果だからな!!
もう一切貰わないほうが、精神衛生上良いのではないだろうか。
「倒すのより、むしろ探すのに苦労したからな」
普通は倒せねえんだよ。
「仕方ないだろう。魔王に対抗する為の勇者だ。むしろ、そこらの魔物に負ける方が難しい」
ドラゴンブレスを吐かれても、自動発動のバリアで無傷だったしな。
衣服も含めて。
「こんなにお金いらないから、もっと貰ってくれて良いんだがな」
家を買うのも目立つから嫌。
娼館もいかない。
武具も作ったほうが強い。
まあ、金の使い道ないよね。
「美人の女奴隷を買って契約魔法を、なんて、あんなの創作だけの話だしな。そんなに都合の良い話がある訳がない」
……普通に美人な娘も結構いたけどなー。
「せいぜいSR級からだな。俺の側にいて良いのは。せいぜい、いてもR級だ」
娼館の上位の女性を身請けすれば良いんじゃないのか?
「おいおい、何を言っている。処女以外認めん」
いきるなよ、童貞。
未経験同士じゃ上手くいかないんじゃないか?
「技量補正が入るから大丈夫だ」
さよで。
さてと。
「マリンちゃんとやらに会いに行くのか」
ああ。
お金はできたからな。
あぶく銭は散財しておかないと、後に響く。
「それこそ、そこそこの女性を身請けできそうなもんだが」
この歳で縛られる気はねえよ。
せっかく自由に動けるんだ、自由にやるさ。
「……羨ましい限りだ」
お互い、無いものねだりだな。
--
>> ロー
「……やば!この髪留め、トウロ島産オリアタートルの甲羅でできてます!しかもこの細工は、巨匠ランタじゃないですか!?」
マリンちゃんを緊急指名。
さっそく、買ってきたアクセサリーをプレゼント。
……多分あってる。
毎回思うけど、芸術品に対する知識が凄いな。
仕事で必要だからちゃんと勉強しているんだろうな。
「ありがとうございます、ローお兄様!」
強く抱きつかれる。
「マリンちゃんの為なら、安いものさ」
あぶく銭だしな。
顔を寄せあい、小声で、他愛のない話をする。
マリンちゃんが、耳元で囁くのが……たまらない。
色々持ち上げてくれるから、ついつい色々と話してしまう。
つと。
マリンちゃんが、顔を離し。
上目遣いで見上げ、
「ねー、ローお兄様。マリン、お願いがあるんだけど」
「何だい?」
マリンちゃんのおねだり。
むしろご褒美。
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