第2話 モブと推し

5階層の階層主の魔石。

魔石は必ず落とすとは限らず、階層主は復活までの期間が長い。

階層主の魔石は、そこそこ良い値段になるのだ。

が。


流石に、シルバー等級で5階層の階層主をソロで倒せば……変な目で見られる。

頭抜けた力がバレると、ろくな事にならない。

こいつの信条であるそれは、確かに事実だと思う。

少なくとも、力を明かすのは、今ではない。


……いや、俺も非才の身なんだがな。

主にこいつのせいで、魔改造されてしまった。

残念ながら、一般的な冒険者の中では、そこそこの実力だ。


「プラチナ級PTにいても遜色ないレベルだとは思うぞ。俺からすれば、仕上がりに相当不満あるんだがな」


お前が優秀なのは認めるよ。

だが、俺にはそれに付き合えるだけの才能がない。


「家事能力は素晴らしいのにな。コックやパティシエになれば、伝説級の存在になれるぞ」


お前の異世界とやらの知識のお陰でな。

純粋な料理の腕で言えば、かなりお粗末だよ。


「食べ物の話をしたら、餅が食いたくなってきた。あるか?」


あるよ。

俺は餅を取り出すと、これに渡す。


「さっきから代名詞で呼んでばかりだな。ちゃんと名前で呼べよ」


……


こいつは、俺の幼馴染の勇者、ゴルファ。

異世界転生して来たらしい。

最強の力を持っているが、それを隠して生きると決めているとか。

スローライフを目指しているらしい。


無限のスキルやユニークスキルを持っている。

俺の心を読んでいるのも、俺の居場所をあっさり見つけるのも、スキルが理由だ。


「常にばれたらどうしようという不安もあれば、なかなか楽しみを見いだせないという不満もある。良いことばかりではないけどな」


持たざる者も、持つ者も、どちらも不幸という訳だな。


「いや、お前は人生謳歌しているだろうが。お金貯めては、貢いでいる癖に」


お前も行けば良いだろうが。

風俗くらい。


「だから何度も説明しただろ……俺は、風俗に行けないの。生まれついての美貌に加え……女性を惚れさせるスキル、魅了するスキル、発情させるスキル……しかも自動発動。呪符で封印している今ならともかく、密室で2人きりになって……しかも体液が相手に触れたりしたら……相手は完全に壊れてしまう。流石に俺も、自重せざるを得ん」


それは正直、可愛そうだと思う。

風俗。

それを商売にしているだけあって……本当に、いい気分になれる。

相手を喜ばせる、本当に尊敬できる職業だ。


そして。

今の俺の推し、マリンちゃん。

シチュエーションクラブ、という、ごっこ遊びを楽しむタイプの風俗で。

現役学生という設定で働いている女性だ。

彼女のプロ意識には、本当に恐れ入る。

俺の話を、本当に興味深そうに聞いてくれるし。

友達の話とか、本当に学園に通っているかのように思える。

時々、授業での悩みの相談とかも受けたりする。


「だから、それ本当に学生だと思うよ」


また言ってる。


ゴルファの故郷では、学生が風俗で働いたりしていたらしい。

この世界では、ありえない。


この世界では、学生には簡単にはなれない。

特にこのあたりで言えば……大規模なものは、王立アカデミーくらいだ。

他にも私塾はちょくちょくあるが。

マリンちゃんの設定に合うのは、王立アカデミーだけである。


王立アカデミーに通うという事は。

そこそこの才能に加えて膨大な寄付金か、騎士団や宮廷魔道士にシードで入れるレベルの才覚か……そういった物が必要となる。

単純な話だ。

そんなところに通う女性が、風俗で働く訳がない。


「で、マリンちゃんとやらに会いたいのなら、お金稼いだらどうだ?ちょうどまたお使い頼みたかったんだ」


……自分でやれよ。


「俺はリスクを犯したくないからな。売上の半分はやるから、頼むよ」


……1割で良いよ。


--


>> ロー


ゴルファお手製のローブに身を包み。

ゴルファお手製の仮面を被る。


隠蔽S、気配遮断S。

俺の生身のスキルより、遥かに高度な性能。


貧民街。

家を持たない者も多く。

空気も淀んでいる。


見回りの騎士も近づかない。


だからこそだろう。

賭博場、娼館、奴隷市場……そして、闇市場。

本当に価値があるものは、ここに集まる。


今回の目的地は、比較的安全な場所。

盗賊ギルド。

ギルドマスターは、表の冒険者ギルドともパイプを持つ。

綺麗事だけでは対処できない時、裏で国から、冒険者ギルドを通して依頼があったりもする。

何気に、SランクPTを幾つか抱えていたりもする。


そして。

俺自身、お抱えの一人と目されている。

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