全てを失った転生チート勇者と、堕ちたる地雷女神と、勇者の友人枠のモブ(主人公)。その無理ゲーとか糞ゲーというのはどういう意味だ?

赤里キツネ

第一部

第1話 モブとダンジョン

>> ロー


パチ……パチ……


起こした火が、ゆるゆると燃える。


ダンジョン。

一攫千金を夢見るも良し、程々の稼ぎを狙うも良し。

生活の糧を得るには、良い稼ぎ場だ。


成長し、時節組変わって宝やトラップが入れ替わるダンジョン。

地上より経験値が多い魔物達。

問題なく存在する酸素に、所々流れる川。

点在する、安全なオアシス。

昼には発光する壁。

あいつ曰く、都合が良すぎる存在は……だが、この世界に生きる俺達にとっては常識的なものだ。


一角兎の肉が、美味そうな匂いを漂わせる。

岩塩に、香辛料。

それをふりかけて焼いているそれは、間違いなく美味い。

薬草と黒豚のスープも、良い匂いを漂わせる。


にしても。


「今回もハズレか……」


新エリア。

今日の探索の目的は、レアアイテムの入手。

宝箱は5つ程見つけたが、二束三文程度の価値。

かさばるものは捨ててきた。

これだけの品では、大した稼ぎは見込めない。


まあ。

レベルは上がったし、


がぶり


兎にかぶりつく……やはり美味い。


この美味い食事に免じて、許そう。

長い人生、別に焦る必要はない。

魔王は復活するらしいが、すぐに倒してくれるらしいし。


だが……


「次に会えるのはいつかなあ……」


推しに貢ぐお金と、装備品を整えるお金。

いつかは自分の家も持ちたいし。

やはり、都会はお金が足りない。


奴のところで『バイト』するのも癪に障るしな。


ごくり


スープに口をつける。

うむ。

やはりダンジョンで食べる飯は美味い。


--


>> ロー


「オーガの魔石が3、オークの魔石が32……いったい、何があったんですか!?」


ギルド職員のアミルちゃんが、大きな胸を揺らしつつ、目を見開く。

駄目だよ、そんな前かがみのポーズとっちゃ。


「オーガは、4階層まで上がってきていてね。階層補正で弱体化していたらしい」


「……弱体化していてもオーガですよね。よくご無事でしたね……というか、シルバーランクに上がったところですよね。4階層まで単独で潜って、無茶をなさいます……」


アミルちゃんが、心配そうな顔をする。

本当は6階層で狩りをしてたんだけどね。


オーガは、正面からやり合えば面倒だが。

背面から奇襲をかければ、結構楽に倒せる。

ソロゆえの利点だ。


「ローさん。ゴールドグリフやシルバースネークが探してましたよ?」


ゴールド級のPT。

このあたりでは、トップのPTだ。


俺のポジションは、レンジャー。

気楽なのでソロで潜っているが、本来の役割は、PT支援だ。

実際、単純な火力や防衛能力で言えば、俺は戦闘職には数段劣る。


請われて、PT支援を行う事も良くある。

が……数週間単位で拘束されたりするし、面倒なんだよな。

稼ぎは良いのだが。


「条件次第かなあ」


「……白馬の乙女に、格安で手を貸しておられましたよね。ちょっとイラっと来てましたよ……主に白馬の乙女達に対して」


白馬の乙女は、若い女性だけのPTだ。

実際、そこそこは優秀なのだが……シルバー級の中位くらい。

能力も、性格も、人の良さも、思想も……一級と呼ばれる、ゴールドグリフやシルバースネークには敵わない。


俺のレンジャーとしての役割は高く評価されていて。

それを格安で雇うというのは、決して褒められた行為ではない。


俺が仕事を受けた理由……それは勿論、下心だ。

思わせぶりな事や、ぷちラッキースケベはあったが……せいぜいその程度。

次に仕事を受ける事は、ないな。

私的なお誘いなら大歓迎だが。


「上級PTを目指すという心意気を買ったんだがな。口だけという印象を受けたから、次はないよ」


「……まあ、そう言って見放す上級冒険者は多いですよね。同じ女性PTでも、白猫とか狐のお茶会とかの方が、応援しちゃいます」


そちらにも手を貸した事はある。

本当に真面目に上を目指していたので、真面目に支援してやった。


「査定が終わりました。凄いですね、金貨10枚と、銀貨32枚になります」


生活費や、貯蓄分を差し引くと、遊びに使えるのは金貨5枚といったところか。

推し活に使えるのは、その半分くらいにした方が良いだろう。


……


今回は諦めた方が良さそうだな。

あくまで、余裕を持って楽しむのが良い。


--


>> ロー


「で、諦めたって訳か。わざわざ冒険者ギルドで報告とかするから、制限プレイになるんだろうに。俺のお使いと一緒に、自分の分も処分したらどうだ?」


当然の様に俺が泊まった部屋に押しかけてきて。

ギルドに出す訳にもいかず、持ち帰った魔石を弄ぶ。

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