第三十三話 消し忘れの世界の思い出

「断片……世界?」


色褪せた道、色褪せた空、色褪せた建物。

まるで本の挿し絵の様な世界。

断片世界。

彼女がそう呼んだ、灰色世界に今私はいる。


「何なんですか、ここ?」


当然の疑問が口から飛び出す。


「ここは断片世界。決して表に出る事のない、世界の裏側よ」

「世界の裏側?」

「そうよ。ここはね、私たちが住んでいる世界の裏側に存在する滅びた世界なの」

「滅びたって、なんかどんどんなんなのかわからなくなっていくような……」

「そうね、簡単に説明するとここは前、つまり私達がの世界が出来る前に存在した別の世界なの」

「……はい?」

「ここは私達の世界が出来る前に栄えていた昔の世界なの。でも色々あったみたいで結局世界は滅んじゃって、それで仕方なく神様が新しい世界を作り直したの。そしてその作り直された世界が今の私達の世界って事よ」


前の世界?作り直し?神様?

突拍子もない言葉の数々に先ほどから飲み込む前に圧倒されてしまう。

話のスケールが大きすぎるのだ。


「なんとなく伝えたい事はまあ理解は出来そうなんですけど、その、本当の話なんですよね?」

「ええ、本当よ」


にこにことした笑顔でアピロはそう答える。

この人に言われると本当なのか冗談なのかわからなくなってくる。


「本当っすよエーナさん、あの魔女が言ってる事は全部」


私の信じられないような顔察してか、キャトからそんな言葉が出た。


「今いるこの場所は以前の世界、つまり私達のいる世界が出来る前に存在した場所って言われてるっす。まあこれも所謂完全な確証があるわけじゃないっすけどそういう説が書かれた書物がいくつか見つかってるんすよ。そういった過去の情報と現在調査結果から、割とその説の信憑性は高そうっていう流れになってます」

「以前の、前世界か。毎度毎度思うんだけど、魔法関係の話って突拍子のないというかスケールが大きすぎるというか、そういうの多いよね……」

「その気持ちは痛いほどわかるっす。私も最初学び始めた時はそんな事ばっかりでついていけなくて、最近はまあ慣れてきたっすけど」


私の肩を叩きながらうんうんと頷くキャト。

キャトの言う通り、今まで魔法とは無縁の世界で生きてきた私には入ってくる知識が私の中にある常識という概念を崩すしていく内容ばかりのため言葉の意味は理解できてもそれを飲み込む事には時間がかかってしまう。

いずれはそれにも慣れる日が来るのだろうか。


「さてこの場所については一応理解できたみたいだし、とりあえず先に進みましょうか。細かい話はまた歩きながらで」


ぱんぱんと軽く手を叩きアピロはそう口にした後、歩を進め始めた。

私とキャトもその後に続く。

それから暫く、色のない世界を私達は歩いた。

恐らくどこかの大きな街だったと思われる石田畳の大きな道をこつこつという足音ほ響かせながら。周りの建物はボロボロだったり一部分がナイフで裂いた紙のように綺麗に切り取らているようになっていたりと奇妙なものがおおい。

そしてたまに見える建物にある看板、そこには明らかに私達の世界で一般的に使われている文字とは異なる別の文字のようなものが書かれていたりしており、先ほどの話にあった、私達がいる世界とは別の世界という話に少しだけ信憑性が増していく。

とはいえ、それ以外あたりに特別な様相は見えず確信は持てなかった。


「そういえば、どうしてこの世界を歩いた方が近道になるんですか。結局歩くなら、元の世界とあんまりかわらないんじゃ?」

「それはね、今の私達の世界と断片世界との繋がりが歪だからよ」

「歪?」

「そう。断片世界はね、私達の表の世界の裏側にある事は間違いなのだけどどこからでも断片世界に入れるわけじゃないの。表世界と断片世界を行き来できる場所は決まってその繋がりがある場所、所謂侵入口以外では基本的に無理なの。そしてその侵入口の距離は、表世界と断片世界ではイコールではないのよ。

簡単に言えば、侵入口距離が断片世界で歩いて一時間の距離だったとしても、表世界での侵入口通しの距離は歩きて一週間の距離だったする場合があるのよ」

「なんですかそれ!?なら移動するのにこの世界を使った方が便利なんじゃ」

「逆パターンもあるわよ。表世界では徒歩で一時間の距離が断片世界では丸一日かかるとかね」

「なんか極端ですね……」

「そう、極端なのよ。まず侵入口事態が少ないのと必ずしも行きたい場所に存在するとは限らない。仮に存在していたとしても地上で移動するよりも数十倍の時間がかかるのなら特別な理由でもない限り使う必要性は皆無。だから今のところ実用性はないわね」

「ちなみにタリアヴィルまではどれくらいかかるんですか?」

「そうね、歩いて3時間くらいかしら。地上で歩こうとすると丸一日はかかるからかなり近道ね」

「だいぶ近道ですねそれ……。ならみんなこの道を使えばいいのに」

「そういうわけにもいかないんすよエーナさん」


キャトが口を開いてやれやれといったポーズをとる。


「使えれば人材や物資の流れも良くなるかもしれないんすけど、そうできなり理由があるんす。と、その説明をする前に一つ確認したい事があるっす。アピロ……さん、さっき三時間くらいでって話だったすけど私師匠やアルバートさんからもそんな侵入口があるなんて聞いたことないっす。さっきの入口といい、そのタリアヴィル側侵入口は協会に申請してちゃんと調査済みなんすよね?」

「申請……?何の話?」

「何の話って、断片世界と繋がってる場所は悪用される可能性もあるから協会側で管理する話になってるじゃないっすか」

「あら、そうだったかしら」

「いやそうっすよ。まさか未申請なんじゃ……」

「……まあ細かい話はいいじゃない、今すぐどうこうなる事じゃないんだから」

「ちょーーーー、まさかマジで未申請なんすか!?やばいっすよ!怒られっすよ!!!というか未調査って事はアレが出てくる可能性だって……」


キャトがやばいやばいっす、と狼狽しアピロさんを責め立て始めたその瞬間だった。

大きな黒い影が私達周りをに突如として現れたのは。


「あら、来るときは問題なかったのに。今すぐどうこうなっちゃいそうね」


あらあらと口に手を当てて微笑むアピロ。

そして状況がまたも理解できず横で呆然としている私。


「笑ってる場合っすかあああああああああ」


そんな中、キャトの心叫びが裏の世界へ木霊するのであった。

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