第三十二話 消し忘れの廃れた場所
「おはよう二人とも、準備は大丈夫かしら?」
「はい、鞄に昨日の内に詰めておきましたから」
「おなじくっす、準備はちゃんとしてきたっすよ」
翌朝、私とキャトはアピロさんと待ち合わせの予定をしてたとある街はずれの廃屋前にきていた。
「よろしい。では時間も惜しいし早速向かいましょうか」
「向かって、ここからですか?だったらグリフォンが乗降りする塔とかを焼くその場所にしたほうがよかったんじゃ……」
「いいえ、今回の移動にはグリフォンは使いません。あれも確かに早いけどタリアヴィルに行くとなるとちょっと遅いのよねー」
強風で髪もくしゃくしゃになるしと両手を広げてながらやれやれと口にする。
「じゃあ、どうやって行くんですか?馬とか?でも馬はグリフォンよりも遅いか……」
「そうね。その方法はこの後すぐのお楽しみにしましょうか。
ところでその前に聞きたいことがあるんだけど……キャトルズ・バーウィッチで名前はよかったかしら?」
「間違ってないっすよ。それで何の質問すか?」
「ではキャトルズ一つ聞きたいのだけど、あなた裏側を歩ける?」
裏側?なんの話だろう。
そう思っていると、私の横では何かに驚いたような凄い顔をしたキャトがいた。
「裏側って……まさか断片の中を歩くつもりっすか!?」
「ええ、タリアヴィルまでならそっちの方が近い道を知ってるのよ。
それで、あなた歩けるの?」
「……一応一度だけ師匠に連れて行ってもらった事があります。
そんな長い間いたわけじゃないけど、別に異常はでなかったっす」
「そう、なら大丈夫そうね」
そう聞てアピロさんは、踵を返すと廃屋の中へと足を進め始める。
「ちょ、ちょっとまってくださいっす。
あそこは師匠の話ではあそこまはだ危険で、その、アイツらもまだいるから迂闊にはいるなっていわたっす!それにエーナさんに適正があるかわからないっすよ!」
「大丈夫よ。そこらへんの有象無象が襲ってきたところであなた達を守り通すくらい余裕よ。まあデカブツが出てきたとしても多少時間がかかる程度かしらね。
あと、その子の適正に関しては大丈夫よ、既に確認済みだから」
そう答えると、そのまま建物の暗がりへと彼女の姿は消えていった。
私が知らない事当然のように会話する二人。
当たり前だがキャトだって、見習いとは言え一人の魔法使いなのだ。
ここ数日一緒にいてただの気の良い友人を見つけたと思っていたがこのやり取りをみて彼女も向こう側の人間なのだと再認識する。
「ねぇキャト、さっきからアピロさんと話して適正だとか何の話?」
「これに関しては多分説明するより見た方が速いっすね。すぐわかると思うんでとりあえず後に続くっすよ」
キャトはなにかぶつぶつと言いながらアピロの後へと続いた。
「当たり前だけど、やっぱ二人とも魔法使いなんだぁ……」
そんな事を身に染みて感じながら、私は二人の後を追うのだった。
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二人の後を追った屋内、そこには間近で大人一人を映し出せるほどの大きな割れた鏡と……、その前にたたずむ二人の姿があった。
「よし、そろったわね、それじゃあ早速道をあけちゃうから私が通ったら二人もすぐに続いてね。時間が空いちゃうと出る場所がすこしずれちゃってはぐれちゃう可能性もあるから」
「了解っす。エーナさん念のため手を繋いでおきましょう、そうすれば少なくとも私達が離れる事は防止できる……はずっすから」
「はぐれるってなに!?それに確証無し!?」
「私もこれに関してはそんなに詳しくないんすよ。大丈夫だと思うっすけど、まあ一人で飛び込むよりは私も気が楽っすから」
そう言って差し出された手を握ると、キャトも強く握り返してきた。
「準備は大丈夫そうね、じゃあ開けるわよ」
アピロは微笑みなら割れた大鏡に手のひらを当てる。
そして何か、おそらく魔力なのだろうか、何かの塊が彼女の手からその鏡に向かって
流れ込むのが見える。
一瞬、あたりの空気が震えるような振動……ではないがそれに近い何かを感じる。
そしてアピロさんが手を離した時、そこにあったのは
欠けていない鏡だった。
ただ鏡を直しただけ?と一瞬思ったが、それは違う事に気づく。
まず第一に鏡が映し出してる場所は明らかにこことは違う場所であること。
明らかに色彩がなく、見える建物も地面もすべて灰色に見える事。
そして何よりも
「私達が映ってない?」
そうこの場には人が3人もいるはずなのにそれが映っていないのだ。
もとより別の場所が映っているのだから私達が映っていないもの察する事ができたのだろうが、それでも私には驚くべき事だった。
「じゃあ先に入るから、二人ともすぐに続きなさいね」
アピロはそう声をかけながらその怪しい鏡の中へとそれが当たり前と言わんばかりに入っていった。
「よし、じゃあ私達も行くっすよエーナさん!」
「う、うんわかった!」
握っていた手に思わず力が入る。
少し駆け足で前に進むキャトに合わせて、私も歩を合わせて進む。
そしてキャトがその鏡の表面に触れて飲み込まれていき、そのまま繋いだ手が私の体が、境面に触れて飲み込まれる。
一瞬の静寂と何も見えない暗闇が視界を覆う。
そして数秒後、何かに着地したような感覚を足元に覚える。
その後視界は開けていく五感が元に戻っていく感覚を受けながら私は今いる場所を見渡すのだった。
目に映るのは灰色。
誇張もなく灰色の世界。
地面も空も壁も建物も、濃さや加減は違えど灰色の世界。
「どうやら二人とも無事にこれたみたいね」
先にたどり着いていたアピロが微笑む。
「ようこそエーナ、朽ち果てた地、断片世界へ」
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