第三十一話 無力なキャトルズ・バーウィッチ

「それにしても、結局お昼は食べ損ねちゃったね」

「……そうっすね」

「でもまさかあっちから会いに来てくれるなんて思わなかったなぁ。まあおかげで色々話も聞けたし、今後の方針についてもある程度の目処は立ったけど」

「……そうっすね」

「とりあえず今日1日は久しぶりの王都観光するって話だし、私達も色々と準備を済ませて明日はアピロさんと一緒にタリアヴィルに向かえるようにしとかないと」

「…………そうっすね」


現在私達は食堂でアピロさんと別れて王都の市場へ向かって歩いている。

結局アピロさんと色々と話をした結果、明日アピロさんも同伴でタリアヴィルに向かう事になった。元々魔法学校の件について話させ出来ればと思っていたのだが、どうしても私に見せたい物があると言い向かう事になったのだ。

その際、せっかくだからとキャトも誘われたのだが……。


「ねぇキャト、さっきから返事がすごい適当じゃない?」

「…………そうっすね」


このようにとても無気力、というより何か落ち込んでいるような相槌しか返ってこないのだ。


「そんなにタリアヴィルに行くのが嫌なの?

それともアピロさんが苦手?」

「……どちらかといえば後者っすね」


アピロさんとの話が終わった後、いや終わる少し前からだろうか。最初の方はあんなにおどおどとしていたはずの彼女は、何かイライラするような仕草し始めていた。

タリアヴィル行きの話に付いても最初の態度からは想像出来ないような噛みつき方でネチネチとアピロさんに言いがかりをつける始末であった。

アピロさんはそんな事気にしないと言わんばかりに笑顔のままであったが、どうやらキャトはあの人とはあまり馬が合わないらしい。


「なら無理しなくてもいいのよ?私からアピロさんに断って置くから?」

「いやいやいやいや、それはダメっす!?私もエーナさんについていきます!」

「行きたいのか行きたくないのかどっちなのよ……」


よくわからないテンションのキャトを尻目に歩を進めながら私は一つため息をついた。


「……ねぇ、エーナさん」

「何?」

「さっき……あの魔女と話した時の話題って明日以降の予定についてだけっすよね?」

「そうだったと思うけど……、それがどうかしたの?」

「……いや、ならいいっす。とりあえず腹減ったっすからまた例の酒場でお昼にしませんか?」

「ああ、昨日の酒場ね。そうね、結局特別サービスでご飯頂いちゃったし、今日はちゃんとお金を払って頂くとするわ。キャト、もし羊以外でもお勧めがあったら教えてちょうだい」

「いいっすよ、あそこは美味しい物が沢山っすから。うまい物食べて気分転換と行きますか」

「そうね、昨日から色々あって結構てんてこ舞いだったから」


昨日は結局夜もまともに食事を取れず朝も簡単だったため、久しぶりに食事をするのが楽しみに感じる。

そうやってうきうきしながら歩いてる私の後ろのキャトは先程よりは気分を持ち直したのか、変なちゃちゃを入れ始めるなど普段通りになりつつあった。

だけど、ちょうど、大きな人混みの波にのまれキャトと私の距離が少しだけ開いたとき一瞬目に映ったのは私の知らない顔をした、何かを哀れむような悲しい顔をしたキャトルズ・バーウィチだった。





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