第二十九話 待ちきれなかった来訪者

『エーナさん、あなたがいろいろ見てしまう事についてはここにいるメンバー以外には他言無用でお願いします』


検査室での一件の結論である。

色が識別できる魔法使いは稀、そして展開される魔法文字をはっきりと区別できる者は歴史上でもほとんど存在しないと言われているらしい。

無論見えているが黙っている者もいるのだろうが、希少な事に変わりはない。

結果表沙汰になった場合


『貴重な研究対象ですし、良くて保護するという名目で協会内に監禁。協会から逃れたとしてもその他魔法使い達に拉致されて研究材料にされる可能性がとても高いですね』


非常に物騒な話だ。

キャトは言いふらしたくてたまらない様な顔をしていたが、アルバートさんにきつく言われていたので大丈夫だろう……多分。

あと最後に


『もし、魔法学校を卒業して進路に困りましたら是非執行機関に来てください。その貴重な才能を生かす仕事がたくさんありますよ。いやむしろ学校なんて行かず今すぐ来てもらってもいいですよ。いや、本当にそれがあれば捜査がいろいろ進みそうですし、いや万年人手不足で本当に助かりそうで、いやまじで』


後半に連れて明らかに本音が混じっていたその発言をしたアルバートさんはエルミダからまるで石が割れたのような音立てた拳骨を食らっていた。

昨日の件も含めてやっぱり執行機関っていうのも大変なんだぁ。

そんな事を思い返しながら現在私はお昼ご飯を頂くためキャトと一緒に協会内の食堂へと向かっているところだ。残りの二人は昨日の件でいろいろ話す事があるらしく後程向かうとの事だ。


「そういえば気になってたんだけど、キャトっていま魔法をその、お師匠様から習ってるんだよね?」

「そうっすよ、いわゆる見習い魔法使いっすね」

「この二日間魔法を習いに行っている気配がないけど大丈夫なの?」

「それが、師匠が急用で遠出してるんすよねー。しかもそれが隣の国まで」

「そんな遠出してるんだ……」

「そうなんすよー。帰ってくるのは多分あと一か月後くらいっすかね。それまでは自主錬とアルバート先輩の手伝いって感じっすね」

「ふーん。ちなみにキャトの師匠ってどんな人なの?」

「うちの師匠っすか?うーんそうっすねぇ、まあ典型的な頑固おやじって感じすね。何かある度に怒鳴るし拳骨が飛んでくるんすよ~」

「それは普段のキャトの態度が問題なんじゃないかな……」

「でも腕は確かっすよ?魔法使いの中でも選りすぐりの……なんか食堂の方が騒がしいっすね……」


話の途中、目の前に人だかりができている事に気づく。

食堂の入口と思われる扉の間前で魔法使い達はその中に入る事もなくがやがやと何やら話をしている。


「どうしたんだろう。何か食堂であったのかな?」

「どうなんすかねぇ、まさか食料が届いてないとか……。ちょっときいてくるっすよ」


そういってキャトは駆け出すと顔見知りらしい魔法使いに声をかける。


「こんにちわっす。何かあったんすか、みんな食堂にはいってないっすけど?」

「おお、キャトリッジ。いや何かあったなんてもんじゃないよ、食事をしようと食堂に寄ったら飛んでもない事になってるんだよ」


ほらほら、と食堂の方を指さすのでキャトと私は人込みをのけながら食堂内をのぞき込む。

そして目に映ったのは、一部の机と椅子が吹き飛び散乱しているのと数名の魔法使いが床に転がっているという惨状であった。

そして、その中でひとり、無傷の机と椅子に座って食事を取っている人影が写った。

この場には似つかわしくない赤と黒で彩られた奇妙なドレス。

腰まで伸びる漆黒の髪。

ああ、私はこの人を知っている。

この人は


「あれ、もしかしてアピロさん……?」


それを口にした瞬間、女性は食事をピタッと止めゆっくりとこちらを振り向く。

周りの魔法使い達はそれをみるなり、一歩後退する。


「あら、エーナ。こんにちは」


そういってひらひらと手を振る彼女。

そして振った腕はちょいちょいと私をこちらに呼び込む動作へと移り変わっていく。


「……こっちに来てくれって事かな?」


そういって私が踏み出そうとすると片方の腕を引っ張りそれをそしするキャト。


「エエエエエーナさん、やばいっす、まじでやばいっすよ!!あたりに散らばってる人達みたいに言ったらぼっろぼろの雑巾みたいにされるっすよ!!」

「いやでも、呼んでるみたいだし。それにあの人前話したけどそこまで悪い人じゃ……」

「悪くない人はああやってあたりに人をまき散らさないっすよ!!」


たしかに、いわれてみればそうだ。

とはいえ招かれているのに行かないというのもどうだろう。


「大丈夫よキャト。面識もあるし私なら多分大丈夫だから」

「エーナさん……わかりました、私も覚悟を決めたっす、私達は一連托生死ぬ気とは一緒っすから」

「勝手に死ぬことにされても困るんだけど……」


そういって周りの人々が恐れおののく中で、私達は魔の領域とかした食堂へと入っていき、アピロさんの正面の席へと腰を下ろす。


「見たところ元気そうねエーナ。隣の子はお友達?」

「はい、元気です。隣は王都でいろいろお世話になってる友達のキャトです」

「は、はいぃぃ、あの、キャトルズ・バーウィッチって言います!!アピロ・ウンエントリヒ様、その本日はお日柄も良くご機嫌麗しゅしゅしゅしゅ」

「あら、そこまで硬くならなくてもいいのよ」


ふふ、と笑みを浮かべるアピロ。

見る限り私はこの人が災厄の魔女とは思えないが……。


「アピロさん、どうして魔法協会に?」

「実は、エーナが全然タリアヴィルに来ないから……我慢できなくて直接会いにきちゃった」


満面の笑みをうかべそう答えるアピロ。


「それでせっかくだからすごく久しぶりに懐かしの魔法協会で食事を取ろうと思ったら変な輩に難癖をつけをつけられて食事を台無しにされそうになってね、話もわかってくれないから少し黙っててもらった所なのよ」


なるほど、周りに散らばっているのはアピロさんに何かしらの言い合いとなり、その結果がこの惨状らしい。


「でも、ここまでする必要はなかったんじゃ……」

「ところでエーナ、魔法使いになるかどうかは決めたかしら?」


私の発言は無視されたようだ。そして唐突に本題に入ってしまう。


「魔法使いですか?えっとそのまだ考え中のような感じなんですけど……」

「考え中!?エーナさん、魔法学校に入る権利があってその目を持ってて魔法使いにならないんすか!?」

「目?なんの話かしら」


キャトルズ・バーウィッチ、早速やらかすのであった。

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