第4話 月曜日の午後のルーティーン

炭水化物はなるべく減らして……いきたいという気持ちだけは持っているが、お米大好き日本国民なので、それはいささか難しく、炊飯器で炊きあがったお米の匂いがこの世の匂いで一番好きかもしれない。


まぁ、なんていうか炭水化物を食べた後って眠くなるよね、っていう話。


それでも今日も定時で仕事を終わらせたい。何が何でも。


首を回せばゴキっと音がした。


気合を入れて書類とPCの画面を見つめていて、気づけば15時。

おやつの時間だ。


引き出しの上から2番目。その中に入っているおやつを見てふと思い出してポッケを探る。


「(あった)」


取り出したのは午前中に田口君からお詫びだと強制的に渡されたチョコレート菓子。


糖分だし、ちょうどいい。


誰かに言い訳するみたいにそのお菓子を開けて食べる。それは昔からあるお菓子で、食べたのはいったい何年ぶりだろうか。懐かしくて、もっと高くておいしいものを食べたことはあるのに、このチープな味がたまらなくおいしかった。


「あ、高槻さん懐かしいの食べてますね」


横に座っている1つ下の後輩、霧島ちゃん。


「そうだね。懐かしいし意外と味とか覚えてるもんだね」


「やっぱり子供の頃に食べてたものとかって刻まれてますよね、DNAに」


にこにこ笑う彼女は可愛く、たまによく分からないことも言うが、それがまた彼女の魅力で。私なんかと比べ物にならないくらい“女の子”だ。


「どこで買ったんですか?」


「……、書類の訂正のお願いに行った人からお詫びでもらったの」


嘘ではない。誰なのかは濁したけれど。


「あぁ、ありますよね。はじめから間違えないでくれる方がうれしいんですけどね」


あっさり正論をぶちのめす彼女の思わず小さな笑いが漏れた。


「うん、そうだね」


なんとなくデスクの脇にあるごみ箱にこのチョコのごみを捨てるのは気が引けて、マグカップの横に置いた。


「高槻さん、ここなんですけど、ちょっと聞いてもいいですか?」


「あ、うんどうした?」


お菓子から話がそれてよかったと安堵した。そうして霧島ちゃんの仕事を少し手伝って、その後は自分の仕事をした。


集中できたこともあって、いつも通り定時退社。

今日は月曜日。月曜日の夜は一杯だけ飲んで帰ることにしているのだ。


「お疲れさまでした。お先に失礼します」


お疲れさまでしたー、と。あちこちで聞こえる。言いながらもほとんどの人はすでに帰り支度をはじめている。


なんとなく捨てられなくて結局持って帰ってきてしまったチョコレートの袋はカバンの中。


それを持ったまま、会社の扉を出ればまだ外はほんのり薄暗くなっている程度。

日が長い季節。少しだけムッとするこの時期は嫌いだな、なんて思いながら駅へと歩いていく。今日も地味で目立たなかった。良かった。イレギュラーはあったけれど。


まぁ、このレギュラーについてはこの後行くお店でしっかり聞いてもらおう。



そう決意して電車に乗った。








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