第22話 重要参考人

「ライアンを重要参考人として、陛下が直々に対談を望んでいるそうだ」

「え!? 私なにも悪いことなんてしていませんが……」


 推理小説は小さい頃から何度も読んだことがある。

 重要参考人として呼ばれた場合、大体犯人役として扱われていることが多かった。


 つまり、私も犯人?

 まさか私が、そんなばかな!


 いや、心当たりはあるかもしれない……いや、ある!!


 サバス様との婚約発表時に騒ぎが起きてしまった。

 せっかくの婚約発表すらなかったことのようになってしまったのだ。

 気絶してしまった私も悪い。

 犯人は私?

 そうか、サバス様は王族だから無闇に捕らえられないから全て私が責任を被ると言うことなのか。


 騒ぎを起こして多くの女性を気絶させたのだから、私も覚悟が必要だろう。


「あぁ……私の人生に泥が……。でもサバス様のためなら被りましょう……」

「ライアンよ、何を言っているのだ?」

「え? だって、私捕まってしまうのでしょう?」


 サバス様がクスクスと笑い出した。


「陛下がライアンに聞きたいことがあると申しているだけだ。それに、ライアンが仮に捕まるようなことをしたら、私も一緒に罪を償おう」

「サバス様……」


 つい、魅力あふれるお顔を直視してしまった。

 だいぶ慣れてきたといいたいが、それはない。

 油断しながらちょっとでも見てしまうと、鼻血出して気絶してしまう程のかっこよさを持っている。

 そういう意味ではマーレット様のように、サバス様を直視しても生き残れる力を身につけたい。


「で、念のために聞くが、ライアンは罪になるようなことを何かしたのか?」

「舞踏会の婚約発表時にステージで私が倒れてしまって騒ぎに……」

「あれは原因不明の事故だ。ライアンが悪いわけではないだろう。それに次回の舞踏会で改めて発表すればよい」


 事故の原因はあなたですけれど……。

 いやいや、とてもそんなことを本人には言えない。


「陛下との対談に不安があるならば私もついていくが、対談中は席を外させてもらうぞ」

「ありがとうございます。ついてきてくださるだけでも有り難いです」


 こんなにも早く国王陛下と直接話をする日がきてしまうとは。

 侯爵家に嫁ぐわけだから、いずれお話しする機会もあるかもしれないとは思っていたが、早すぎる。

 心の準備が全くできていない。


「国王陛下と話をするって聞いた途端に緊張してきました……」

「無理もない。だが私と一緒にいるのなら機会もどんどん増えるだろう。慣れてもらうしかない」

「頑張ります……」


 今更だが、男爵家で育った私が侯爵家に嫁ぐことになって国王陛下とも対談することになってしまうって恐ろしいことだな……。

 お父様も料理人で王族からも注目された頃って、私みたいに緊張したのだろうか。

 今度帰ったらそういう話もしてみようかな。


「では参るか」

「え!? もうですか?」

「あぁ、出来るだけ早くの対談を望まれているそうだからな」


 いくらなんでもいきなり押しかけてしまっていいのだろうか。

 どうしよう……。


 まだ私の心の準備が……あわわ。

 サバス様が私の手を握ってくださり、そのままサバス様専用部屋から陛下のいる部屋へ向かっていった。


「ん? 体調でも悪いのか?」

「いえ、大丈夫です……」

「そうか。歩くペースが普段より遅いから心配した」

「あ、ありがとうございます……」


 サバス様が私のちょっとした動作に色々と気付いてくださるのは嬉しい。

 嬉しいのだが、今回のように、歩行ペースをゆっくりにしているようなことは気が付かないで欲しかったな。

 少しでも時間稼いで心の準備を整えたかったのに。

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