第21話 マーレット様のお茶会に招待された
舞踏会から数日後、私はマーレット様が主催するお茶会に呼ばれたのでマーレット家を訪ねた。
子爵家というだけあって、お茶会なのかと疑ってしまうほどのクオリティだ。
私とオズマとミーナの幼馴染み同士でのお茶会とは規模がまるで違う。
庭には数台のテーブルと椅子、料理と飲み物が用意されていて、使用人と思わしき方々が対応をしていた。
参加者も二十人近くはいるか。
全員が十代くらいの女性で、そのうちの数名がマーレット様を取り囲んでいる状態なので話しかけにいきづらい。
参加者も見たことがない人たちばかりだし、挨拶していいものかどうか迷う。
完全に浮いてしまっている状態だったが、私がきたことに気がついてくれたらしく、いつものように……、いや、今までよりも謙虚な感じで挨拶してくださった。
「ごきげんよう……、いえ。ライアンさん、よく来てくれましたわね」
「この度はお招きいただきありがとうございます」
「本当ですわ。本来だったらあなたのような男爵家の人間など今まで招待なんか決してしませんでしたもの」
文句ばかり言っているが、今までのような刺々しさは全くなく、むしろ冗談まじりに笑いながらそう言っていた。
意外だったので私の方が驚いてしまった。
「ま、いずれライアンさんは王族になるお方ですからね。お付き合いしておいても損ではありませんことよ」
「そうですか……。って、マーレット様は私とサバス様の婚約のことを……」
「世間ではドッキリで終わっていますけれど、私はもちろん真実だと思っていますよ。だからあなたとは今後も……」
マーレット様の目的はそこだったのか。
と、私は思えなかった。
もし本心だとしたら、そんなことをわざわざ私に言うはずもないし。
「本当の目的はなんですか?」
「あら、さっき言ったことは本当ですわよ。それに、ライアンさんとお近づきになっておけば、サバス様にお会いできる機会も増えるかと。そんなことも考えていますわよ?」
「まさか、略奪しようと……?」
失礼ながら疑ってしまった。
今までもマーレット様の言動だったらその可能性も十分にある。
もしそうだとしたら、早急に帰ろうかと思ってしまった。
「そんなこと、どんなに努力したって私には無理ですわよ……」
「え?」
「だって、舞踏会の日、サバス様がライアンさんにした行動……。あんなに大事そうにしている姿を見たら、私がどう頑張ったって奪えるわけないですわ」
ひとまずはホッとした。
サバス様のことになってしまうと、どうしても周りがよからぬことを企んで何かしようとしているのではないかと疑ってしまうところがある。
それだけ今まで、大勢の上位貴族達から私に対して嫌がらせや暴言が多かったのだ。
「ライアンさんとは……その、あの……」
普段のお嬢様風で堂々とした態度がまるでない。
むしろモジモジとした可愛らしい女の子みたいな状態になっている。
この感じのマーレット様、本人には言えないが本当に可愛く見えてしまう。
「今後はお友達になりたいんですの!」
「はい!?」
マーレット様とは思えないような発言をしてきたのだった。
「もちろん今までのことだって謝罪いたしますわ。子爵家が男爵家などと深く付き合えば低レベルな貴族と関わったことでバカにされますもの。子爵以上の階級になると、そういう風習がありますから」
「そうだったんですね……」
噂でしか聞いたことがなかったので事実かどうかは謎だった。
でもサバス様はそのような感じではなかったし、一部の人間だけがそういう雰囲気になっているんじゃないだろうかとは思うが。
「でも、それを無視してでもあなたとは仲良くなりたいと思ったんです! 先日の舞踏会で!」
「ありがとうございます。でも、あの日マーレット様と挨拶はしたと思いますけど、それ以外に何かしましたっけ……?」
「ライアンさんなのでしょう? 舞踏会のテーブルに並んでいたクッキー作られたのは」
お父様からメニューが足りないから作れと命じられていたので、クッキーとケーキは私が用意したっけ。
「そうですけど、クッキーと何か関係が?」
「美味しすぎたのですわ!! 感動して、誰が作ったのか聞きましたもの。そうしたら、ライアンさんだと知りましたわ。また食べたいんです!」
お菓子目当てかよ……。
マーレット様の性格ならわからなくもない。
だが、文句など全くなく、私は笑みを浮かべてマーレット様の手を握った。
「ちょ……なんでしゅか?」
「ありがとうございます!! 私の作ったクッキーをそこまでして喜んでいただけて嬉しいんです! また作りますので、今度は是非我が家にも遊びにいらしてください!」
顔が真っ赤になっているマーレット様が可愛らしい。
私が王族になっても、民衆になったとしても、自分の好きなことをこれだけ褒めてくださり、必死になって作った主を探してくれたという行為が何よりも嬉しかった。
「ま……まぁライアンさんがどうしてもって言うなら男爵家に行ってあげてもいいですわ……。そ、そのかわり、クッキー絶対用意してもらいますわよ?」
「はい、焼き立てでご用意しますね!」
マーレット様が今までに私に見せたことのないような笑みを浮かべてくれた。
私はこのとき、上位貴族で初めての女の子の友達ができたのだった。
さっきまでは気がつかなかったのだが、マーレット様が私に対して常に敬語を使ってくれている。
きっと、貴族関係抜きにして対等に話してくださっている証拠なのだろう。
マーレット様のことを『あんたなんか一度ゴキブリの大群と一緒に水浴びでもしていなさい!』などと思うようなことは二度とないだろう。
今思えば、サバス様とレストランでのできごとすら笑い話にできてしまいそうなくらいだ。
マーレット様とはそういう関係になったのだが、それだけで止まらなかったのである。
「マーレットさんだけずるいですよ! 私もライアンさんが作るクッキー食べたいです!」
「ちょっと! まさか伯爵家令嬢の私を差し置いてそんなに面白そうなことをしようとしているので!? 私も招待しなさい!」
「舞踏会で出ていたクッキー、ライアンさんが作ったんですね。感動しました。今後は私ともぜひ仲良くして欲しいものです」
「へ……?」
最初はぼっちだった私のところに全員が集まってくるようになった。
サバス様が命じたから、私のことを変に言わないようにしてくれているというわけではなさそうだ。
もしそうなら、無理に関わろうとはしてこないはずだから。
むしろ、マーレット様との会話のおかげでこんなに嬉しい展開にしてくれたのだろう。
この日、マーレット様のおかげで上位貴族の同年代女性とお近づきになることができた。
「マーレット様、ご招待いただき本当に感謝しています。ありがとうございます!」
「べ……べつに感謝することでもないですわよ……。それよりも、あなたのクッキーが人気すぎて私の分減っちゃったら困りますわよ。しっかりと作ってもらいますからね」
マーレット様とお近づきになってわかったこと。
彼女はツンデレだったのか……。
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