第23話 国王陛下と対談

 陛下の部屋の前でサバス様が警備兵に声をかける。


「サバスとライアンです」

「陛下からライアン様とサバス様が来られたら通すようにと命じられております。お二人とも中へお入りください」


 陛下専用部屋もサバス様と同じような造りになっている。

 その中に入ると、小さな小部屋になっていてその奥に更にドアがあった。


「サバスです。ライアンをお連れしました」

「入りたまえ」


 陛下の部屋はサバス様の部屋とはまた違った感じだ。

 綺麗に整った広いベッド、作業用っぽい机と椅子、そして来賓用のテーブルと複数の椅子が設置されていた。

 気になるのは来賓用のテーブルの上に見慣れた料理が置いてあることだが。


「おう、ライアンも陛下に呼ばれていたのか」

「お父様!!」


 声の主の方を振り向くと、私のお父様がいた。

 しかも、陛下との関わりにもかなり慣れているようだ。

 なお、お父様はお花畑摘み作業から戻ってきたばかりらしい。


「ソルト君にはここによく招待しているのだよ。こうやってご馳走を用意していただいてる」

「ライアンよ、陛下に感謝しておけよ。陛下が俺を評価してくれたおかげで今の生活があるようなもんだからな」


「ふ……。その割には専属コックとして働いて欲しいと何度も頭を下げておるのに毎回断ってきておるではないか」

「そりゃ無理っすよ。俺、いろんな人に作った料理食ってもらいたいんで。もちろん陛下には感謝していますけどね」


 なんなのだ、陛下とお父様の慣れ親しんだ感じは……。

 男爵が王様にそんな態度をとるなんてヤバすぎだろ。


「ライアン嬢よ、其方もここではあまり恐縮せずに気軽に話してくれたまえ。私もその方が助かる」

「そんな末恐ろしいことは……」

「陛下はこの部屋では対等が良いって言ってるんだから遠慮すんなって」

「ちょ……お父様!!」


 私は無意識にサバス様に助けを求めて横を向く。

 あ、顔を見てしまった。

 陛下との対談ということでただでさえ緊張していて心拍数が高いのに、さらに高くなってしまった。


「この部屋に呼ばれただけでもライアンは特別な存在なのだ。それに陛下は心が広いお方だ。難しいかもしれんが普通に話せば良い」

「は……はぁ。わかりました……。あらためて、ライアンと申します。この度はお招きいただき大変感謝いたします」

「はっはっは。固いの。ソルト君とは大違いであるな」

「陛下、一応言っときますが、間違いなく俺の娘ですからね!?」

「そうだな。まぁ座りたまえ」


 私たちは全員椅子に腰掛ける。

 さっきまで笑顔満載だった陛下の顔が急に真剣な表情になったのだ。


「実は、ワインド男爵家のことで尋ねたいことがある」

 ミーナの実家のことか。


「特に、オズマ=フレイヤと結婚したミーナという者に関してだ」


 うわ……。

 嫌な予感しかしない。


「ミーナに何かあったのでしょうか?」


 私はやんわりと陛下に尋ねる。

 何かやらかしたのかと聞きたかったが、一応抑えておいた。


「ミーナとライアン嬢は幼馴染だと聞いている。分かる範囲で構わんが、両親の金に頼って生きてきたと聞いているのだが誠か?」

「オズマとミーナとの三人でよくお茶会をしていましたが、必ずミーナはその日のために新しい服を新調していましたが……」

「ふむ、では率直に聞くが、ミーナは今までに法に触れるような悪さをするような言動、行動をライアン嬢の前でしたことはあるか?」


 それを私に聞くのか。

 そんなこと決まっている。


「数え切れないほどありますけど……。結果的には良かったことですが、平気で婚約者を奪えるくらいの器は持っていますから。でも、人を殺めたり暴行したりというようなことをする子ではないですよ? 一体何があってミーナのことを聞いているのですか?」


 一応ミーナのフォローもしておく。

 もしも殺人事件があってミーナを容疑者としているのなら大きな間違いだと言いたい。

 いくらワインド家の財産差し押さえがあったからと言って、お金の欲しさに強盗や殺人をするような女ではないはずだから。

 幼馴染だし、それくらい人間性は理解しているつもりだ。


 それ以外は自慢女、自信過剰、金遣い荒い、色々と出てくるなぁ……。


「実は、ワインド家の財産差し押さえのときに妙なことが発覚したのだ」

「妙なこと?」

「当然こちらとしては差し押さえる直前に如何程金銭類を所持しているのかは調べている。だが、調べた額の半分未満しかワインド家になかったのだ」


 強盗事件!?

 それでミーナを疑っているということか。

 いくらミーナでもそんなに多額の財産を奪ったりするようなことは……うん、わかんない!


 陛下は他にも、ミーナの家族との関わり方や金遣いの荒さ、そしてオズマのことまで聞いてきた。

 わかる範囲では答えたが……。


「ミーナが今住んでいるオズマ家のことは調べたのですか?」

「これから調査が入る。だが、念のためにライアン嬢からも情報を聞きたかったのだ。それに、サバスと婚約が決まったのだから、是非挨拶もしておこうと思った。それも兼ねてだが」


 挨拶当日に聞き取り調査されるとは思わなかったけど。


「陛下。もしも万が一にもミーナが財産差し押さえの直前にお金を拝借していたとしたら……どうなってしまうのですか?」

「当然ワインド家もオズマ家もお取り潰しになり爵位もなくなり国外追放だろう。今回の件もかなり甘い判決を下したばかりなのでな」

「おいおい陛下。まさかじゃあないが、幼馴染だからってライアンも、俺ん家にまでとばっちりが来るわけないでしょう!?」


 一瞬ぎくりとした。

 ミーナに何かあったとしたら、まさか私までとばっちりを受けてしまうの!?


 陛下の方を恐る恐る表情をうかがった。

 私と陛下の目が合ったと同時に、心配無用というような感じで笑っていた。

 いやー結構焦った。

 まぁ幼馴染に責任なんてないとは思ったけど。


「はっはっは! その心配は無用。幼馴染にまで責任を背負わせるようなことはせんよ。仮にそういう法律だったとしても、ソルト君とライアン嬢は私が守る。美味い食事がなくなるのは困るしサバスにも迷惑がかかる」


 職権濫用かよ!?

 まぁ陛下が冗談交じりに笑って言っているから本気じゃないんだろうけど。

 思ったよりも、ここの部屋の空気感が柔らかい。

 お父様が陛下と親しみを持って話せているのもなんとなくわかってきた。

 もちろん、私はまだまだ緊張と恐縮でお父様みたいに話はできないけれど。


「無論、すまないがミーナにはこのことは内密にしていただきたい」

「承知致しました。私まで共犯にされたら困りますからね。それに、ミーナ達と会う機会はほとんどありませんから」

「うむ、頼む。それでは固い話はここまでとし、このあとは食事会をしようと思う」


 お父様はノリノリだし、サバス様は慣れているようで平然としていた。


 あれ、私だけ浮いてない?


「ライアン嬢よ。君のような子がサバスと婚約してくれて本当に感謝している。叔父として礼を言いたい」

「そんな。むしろこちらからお礼を言いたいくらいですから」

「サバスは今まで跡取りを全く考えてこなかった。一番下の弟ダイルも本人の意思を尊重しようとしていたからな。あまり私からも強く言うことはできなかったのだ。だが、サバスが自ら行動して選んだ、その相手がライアン嬢のような人で本当に良かったと思っている」


「陛下、私は一生独身とまでは考えていませんでしたよ」

「可能性はあったかもしれぬ。どちらにしても、今まで何も言わず任せていた甲斐があったというものだ。ライアン嬢よ、これからもよろしく頼む。国王ではなく、叔父として」

「は……、はい。よろしくお願いいたします」


 そうか……。

 今やっとわかった気がする。

 それぞれに個室があるのは、王族としての権威ではなく、家族として迎え入れたい人たちを招き入れて、この空間だけでも気兼ねなくできるようにしたいのかもしれない。


 私も、早く慣れて少しは砕けてお話ができるようにした方がいいのだろう。

 だが、サバス様の容姿に慣れなければいけないという超高いハードルがクリアできていない。


 陛下、いや、叔父様と仲良く気兼ねなく喋るなんてことも無理だろうな……。


 ところで、ミーナ達大丈夫かな。

 お金パクるとか、そういうやばいことはしていないと祈りたい。

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