第7話 サバス様の美意識

「ライアンよ、次は王都を歩いてみないか?」

「正気ですか!?」

「あぁ」


 私としては外でデートするなんて憧れていた。

 だが、サバス様の容姿で外に出てしまえば大騒ぎになってしまうことは予想がつく。

 サバス様が不用意に目を合わせた女性は全員鼻血ブーとなって王都中が血塗れになってしまうのではないだろうか。

 ま、そんな非現実的なことはないだろうけど。


「すまないが、この格好では外には出れない。以前このまま外に出たとき、何故か知らんが通行人が複数名鼻血を出して倒れたのでな」


 現実だったーーーー!!

 サバス様の容姿戦闘能力は恐ろしすぎる。


「護衛曰く、私は変装して外に出た方がいいと言われているのだ。すまないが変装をさせてもらう」

「はい!! その方がいいと思います!!」

「……? ライアンもそう思うのか?」


 まさか自分でカッコいいことを認識していないのか!?

 鏡見たことないの?

 自分の顔を見てかっこいいって思わないの!?


「サバス様はカッコ良すぎますから」

「何を言うのだ。私のような食にうるさく、誰からの縁談も拒否してきたような男はモテないだろう」

「相当な数の縁談が来ていたと聞きましたが……」

「あれは地位の問題だろう。王族ともなればあれくらいあってもおかしくはない」


 それもあるだろうけど、根本は違うと思う。


「現に私と目を合わせてくれるものがなかなかいないのだ」


 それはサバス様がカッコ良すぎて神々しくて見れないんだってば!!

 かくいう私も未だに直視ができないでいる。

 まさか、気にしているのだろうか。


「ライアンよ、其方も私と目線を合わせてくれないのだが、あまりこういう男の顔は好きではないのか?」

「とんでもございません!! ただ、恐れ多くて緊張しているだけです」

「そうか……。確かに男爵家の人間が侯爵相手にマンツーマンでは仕方がないか」


 いや、それもあるけど、そんなの些細なレベルだ。

 地位の差の数百倍もの難易度で待ち構えているのがあなたの顔です!!


「いずれ慣れるだろう。私は目を合わせ喋る日を楽しみにしている」

「お気遣いありがとうございます……」

「どれ、それでは一度外出用の変装した私を見せようか。いきなりでは驚くだろうからな」


 そう言って、奥にある更衣室へ行ってしまった。

 どうせ変装してもかっこいいのはわかっているけど、どんなお姿になるんだろう。

 最近流行の『変装する道具』を使って顔まで変えられるんだろうが、あれは本人の容姿に対する美徳感で変化するものだ。

 本人の普段の意識によってカッコ良くもなったり逆もある。

 特にナルシストが好んで使われる道具だそうだが、サバス様の場合は逆なのだろう。

 それでも、サバス様ほどの美形をお持ちの方が変装する道具を使ったとしても、カッコいいに決まっていのだ。


「待たせたな」

「いえいえ、って……ええええええーー!?」


 だれ……?

 そこには体型はサバス様そのものだが、くたびれすぎた無精髭まで生えたダサダサの顔をした男がいた。


「すまない、サバスだ」

「ライアンです」

「知っている」


 コントをしている場合じゃない。

 サバス様の美意識だったら相当なイケメンに変装するかと思っていたのだが。

 まさか、こんなにダサ男になってしまうとは。

 ということは、まさか……。


 サバス様は美意識が全くないのにあれほどの容姿戦闘力を持ってるというの!?


「この姿では私のことはダサスと呼んでほしい。外ではこの名で通している」

「はい……」

「それから、このことは婚約発表までの間は他言しないでほしい」

「はい……」

「ほう、この姿なら私の目を合わせてくれるのか」

「えぇ……」

「ならばずっとこの姿でも構わないが」

「絶対にやめた方がいいと思います」


 普段サバス様といるときは緊張してしまい、料理をしているとき以外は冷静でいれない時間帯が多い。

 だが、現在むしろ冷静さが戻って素の私をそのまんま出せている気がする。

 サバス様の目も余裕で合わせることができる。


 で、問題なのは、この容姿のサバス様と王都を歩くということだ。

 本来のサバス様と歩いたら騒ぎになって大変なことになる。

 一方、今のダサス様であれば、正体がバレない限りは騒ぎになる可能性が百パーセント無い。


 と、色々とガッカリしてしまった部分はあったが、元はサバス様なのだ。

 本来の容姿を知っている私にとってなんの問題もない。

 むしろ、これなら本来の私の感情でいられて良いのかも。


「明日楽しみにしてますね」

「うむ」


 このあと、どうやったらサバス様の美意識を高めることができるか、おもいっきり考えながら家に帰った。

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