太陽の王子と月の姫

シバフ

太陽の王子と月の姫

 王子は言いました。


「見えるものはすべて手に入れたぞ。すべて僕のものだ」


 王子に仕えるもの達は言いました。


「王子。この国のちょうど反対にあります”くらやみ”は、まだ手に入れておりません」


「そうか。では、それも僕のものにしよう」


 王子は、明かりを片手に、国のちょうど反対にある”くらやみ”へと赴きました。


「これか。よし、これも僕のものだ」


 王子が”くらやみ”を集め始めると、奥から声がしました。


「誰ですか?」


「む、そちらこそ誰だ。僕の事を知らないなんて――」


 王子が奥に明かりを向けると、そこには、とても綺麗なお姫様がいました。


「わわ……」


 お姫様がとても綺麗だったので、王子は驚いて、明かりを置いたまま帰ってしまいました。


 お姫様は、王子の置いていった明かりを拾いながら言いました。


「少ししか見えなかったけれど、とても凛々しいお方でした……これは、わすれものかしら」


 お姫様に仕えるものたちは言いました。


「お姫様。あのお方は、そのわすれものを取りに戻ってくるでしょう」


「そうね。大切に持っておきましょう」


 お姫様は、王子の明かりを大事そうに抱えて、王子が戻ってくるのを待ちました。


 半日ほどして、ようやく王子が戻ってきました。


「ああ、その、わすれものをしてしまったので」


「ええ、こちらですね。ぜひ」


「すまない、ありがとう」


 お姫様は王子に明かりを差し出しました。


「……」


「……」


 王子もお姫様も、次の言葉を見つけられず、固まってしまいました。


 明かりを逆さに持った王子が言いました。


「ここはずいぶん暗いね。この明かりは、君に貸したままにしておいても、いいかもしれないな」


 声を上ずらせたお姫様が答えました。


「まあ。とても嬉しいです。でも、ずっと借りたまま、というわけにはいきませんから」


 二人とも、耳まで真っ赤にしています。


「え、ええと、では、半日ほどしたら、またこのように取りにこよう」


「え、ええ。ぜひ、そうして頂きたいです」


 こうして、王子は毎日お姫様の元へ明かりを届け、半日したら受け取りに行くようになりました。


 二人とも、相手と話す内容を一日中考えているのに、いざ向かい合うと、口数も少なく、ただただ顔を赤くするばかり。


 明かりという口実で二人が出会うのは、一日の中で二回だけ、ほんの少しの間だけ。


 普段は冷静な王子とお姫様が、その時間だけ、顔から火が出たように赤らめるものですから、仕えるものたちはやがて、その時間の事を「火灯し頃」と呼ぶようになりました。


 二人が顔を赤くせずに出会えるようになる日は、一体いつになることやら。

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