第5話
俺の朝起きてすぐの日課は、ブログの確認とエゴサーチである。
今日もブログが盛況だ。
万単位でアクセスが回る回る。有料ブログにすればよかった。広告料だけでも大金を稼げそうである。
シャワーを浴びて、歯を磨いて。
きちっと身支度を整えた俺は、追加の護衛隊とコメ国の護衛部隊と調査隊と一緒にメーリカ国に転移する。
陣地では、既に皆、精力的に活動していた。
こっちに泊まっていた社員達も、今は狩りへと出ているらしい。
軍人達がきびきび動き、科学者達が目を輝かせて飛び回っているのを眺めながら、果物を食べて朝食とする。
凄いのはメーリカ人も結構な割合で混じっていることだ。
メーリカ国はコメ国にどこか似ており、寛容で自由で正義を愛す、過ごしやすい国だ。
そのせいか、コメ国人と非常によく馬が合うようだった。
魔法の早期修得も、性格がマッチしたからなのかも知れない。
侵略が心配だが、今の所そういう空気にはなっていない。
コメ国は民主主義を愛しているが、フロンティア陛下は魔物に押される国で多種族を束ねる掛け値なしの名君だし、波風立てる意味は薄いどころかマイナス。
それよりも興味があるものが多すぎて調査で手一杯という感じだ。
「嵐月! レイドボス倒したから異能解放してくれ!」
「はいはい」
「うおおおお! 覚醒しろ眠れる俺の力!」
楽しそうである。ガチファンタジーだもんね。俺も若い頃はそうだったなあ。
そんなのんびりした気持ちでいると、竜人がエルフをお姫様抱っこで飛んできて、声を張り上げた。
「嵐月殿に、国王陛下から文を頂いている! 嵐月殿はどこだ!」
「はーい! どうぞお入りください」
俺は駆けてきた代表者達や一足先に飛んできた燕と平光を迎え入れ、竜人さんと共に部屋に入れると話を聞いた。
「嵐月殿。其方の仕事ぶりは誠に天晴れである。二月後に領地を正式に定め、叙爵の儀式を行いたい!」
「嵐……月、さんが?」
「開拓手続きは嵐月殿の手で行われているからな。申請に変更があれば、早めに申し出よ。これは、以前の叙爵の儀式の資料である」
「後程変更の申請に伺います。何人かに分割しても大丈夫ですかね?」
「それならばちょうどいい。1人がこの広大な領地を所有するのは問題があるからな。区分けはこちらでしても?」
「そういうの得意な人がいるんで、その人の意見も聞いてもらえればありがたいです。でも4分割以上にしてください」
「わかった。その辺りの詳しい話し合いはこちらの調査官がする。先に言っておくが、叙爵は基本的に世襲制となり、領主の地位は陛下以外に譲る事はできない。陛下へ土地をお返しする事はできるが、人気投票で時期領主を決める事は我が国の法律上できない。そこを念頭に入れて選定を行うように」
「ご助言ありがとうございます」
リーダー達が苦い顔をする。そうだよな。領主にしてもいいけど、日本やコメ国に帰っちゃダメだよと言われると微妙よな。
「その代わりと言ってはなんだが、本来叙爵の儀式は厳密に決められているのだが、ある程度自由にやって良い。無論、事前のチェックはするが、国王への敬意が払われるのであれば多少そちらの文化によったり派手にしても良い。国王への衣装の献上も許そう」
「それは凄いですね!」
俺は思わず驚く。
他の人たちも格別の配慮に目を見開いている。
「どういう事なんですか?」
燕が聞くので、俺は快く答えてやる。
「つまり、本来なら衣裳や儀式や料理は他の領地や身分に厳密に合わせないといけないけど、国王様に一番上等な衣服を着ていただく、ということさえ守れば好きなように儀式をして好きな物を食べていいって事。歯も立たない硬いパンよりハンバーガーやケーキの方がいいでしょ? せっかくのお祝いなんだから。もちろん、禁止事項もあるだろうけど、それは事前にチェックしてくれるから心配しなくてもいい。凄いよ、宴なんて貴族の超重大事項だから、最大限の配慮と言っていい」
「そうなんですね、すごい!」
早速別室で使者の竜人さんとエルフさんをもてなし、俺たちは話し合う。
「当社は叙爵を機に辞退します。ネタは十分集めたので」
「世襲か……」
「うーん」
「どうにかならないかな」
「流石に加入直後に政治体制に物は申せないし、世襲制なら気軽に帰りますとも言えないし、出来れば独身の人が現地人の貴族の娘を娶るのがベストだと思う」
「うーーーーーーーーーーーん」
欲しいんだが欲しくないんだかわからない難しい役どころよね。
欲しいと手を挙げた人でいいんじゃないかな。変な人はそもそも競争激しいここに潜り込めないわけだし。
「とりあえず、上に投げるか」
さて、領主よりも遥かに人気な役どころがあるのだが、お気づきだろうか。
叙爵の際の儀式と宴の取りまとめである。
話を聞いたデザイナーやプランナーが何人も手を上げ、是非とも地球で放送を! となったのだ。
その衣装デザインの争いは特に熾烈を極めたのだが、なんと蜘蛛子さんがそれに参戦。
しかし、言葉を話せぬ身で割って入れるはずもなく、しおしおとしていたので見てられなくて当社も叙爵をお願いする事にした。
その時、手を上げるものがいた。まさかの渡君である。
「リズちゃんと結婚したいから、僕、お貴族様になりたい!!!」
「リズちゃんイズ誰」
「森を探索中に助けた子で、このままだと20歳以上歳の離れた相手に嫁がされちまうんだよ。ちなみに7歳」
「うわぁ。リズちゃんはなんて?」
「渡君と仲良くなって、別れたくないと散々に泣いてね。応援できるものなら、私たちも応援させて欲しい」
「でも渡君、地球帰れなくなるよ?」
「リズちゃんの方が好き」
「ちょっと聞いてみようか」
ということで、子供でもいいか問い合わせをしてみた。
「リズ嬢と結婚するのなら、何も問題はない。小さい方が馴染みやすかろう。学校は国の指定する所に通うことになるが」
家族会議勃発である。
でもまあ学校は就職の為のもので、就職先が盤石なら問題ない。
俺もできる限りのサポートをすると約束し、老貴族が後見してくれることとなり、当社の代表は決まった。
俺は蜘蛛子さんが衣装作れればそれでいいしな。
俺の考えは甘かった。とても甘かった。
現在、俺はポカンとした間抜け顔でそれを見ていた。
だって叙爵式の為だけに城じゃ不足とばかりに首都近郊に見上げるような式場を建てると思わないじゃん?
「ここ! ここで陛下が鳥のように舞い降りてくるんだから、気合い入れて作るのよ!!」
ちなみに日コメ共同制作で、お金を出してるのは日本である。麗和星で儲かってるだろってことで。
お祝い事だから、駆けつけてもいいよね! ということで各国が入国を依頼してきた。
人口の多さで有名な華国なんてお前らそのまま入植するつもりだろってくらいの人数が来る。
何か大変な事が起ころうとしている。
なお、各領地でも劇場の建設など祝う用意を急ピッチで進めている。
どうしよう。俺たち何もしてない。1組だけ文化祭レベルになる。後一ヶ月しかない。
蜘蛛子さんもヒスを起こしている……。平光さんとこのポチは自分に素晴らしい役目が回されると疑ってない……。
「邪神様……。心配しないで。僕は、リズちゃんと一緒に居られれば、それでいいんだから」
プルプルしていると、渡君が手を握ってくれた。
「身の丈ってもんがあるだろ。まあ、見苦しくなきゃいーんじゃねーの」
「私は派手にしたいかな」
ふぅ。これはやるしかあるまい。俺には麗和星を叩き売ったマネーしかないのだから。
「蜘蛛子さんの子蜘蛛と一緒に当社の領地の演出してくれる人、募集!」
大量のデザイナーが釣れた。
そして、当日。
「フロンティア陛下の入場です!!」
司会の人が良く通る声で宣言すると、オーケストラの奏でるメーリカ国国家と共に竜人が空から舞い降りた。
神々しくて物理的に眩しくて見えないっ
その後、メーリカ国の歴史の動画が流れたりとか(異星人が我が物顔で語る歴史とは……?)
若き通り越して幼きカップルの結婚式がサプライズで行われたりとか
蜘蛛子さん達が協力して、即興で十二単衣みたいな服を作って着せる演出をしたりとか
食料を大量に屋台でしたりとか
やっぱり宴後のメーリカ国の人口がそっと増えてたりとか
まあそんなことがあって、ヘトヘトになって帰ってきた。
なお、くっそ豪奢な十二単衣が我が領地の正装となったことからは目を逸らす。
ここからが本題だ!
「うーし。じゃあ、半年かけて色々経験したし、ゲーム作るぞ!!」
それぞれ声を上げる。一年掛けて作り上げた初めてのVRゲームだが、無事人数大杉で破綻した。
たった12人の運営のVRゲームで30万人のプレイヤー捌くのは無理だって!
あまりの稼働しなさっぷりに課金させる段階にすらいけなかった。
その後、大手がそれを元ネタに出したゲームが大ヒットしたのは複雑である。
開拓風景は映画化もして大ヒットしている。
ネタのチョイスは悪くなかったはずだ。実際30万人も来たんだし。
じゃあどうすればよかったんだ……。
麗和星を売って四年。未だ麗和星を売った代金以外の収入は0である。
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