第4話
エルフ族の男は、ため息を吐いていた。
昨今の魔物の被害は酷すぎる。
おかげで、住んでいた町は滅び、王都の方へと逃げてきたが仕事がない。
開拓の仕事だけはあるのだが……。それは不可能に等しい。
そんな中、楽しげな笑い声が聞こえた。
何かと思って振り向くと、丸耳の見たことのない種族が、王都の異様に驚きはしゃいでいた。
私にもこんな時期があったものだ。それにしても、なんと真っ白な布の男だろう。緑色の服を着た男達は護衛だろうか? どこぞの遠くの国が滅んで高貴な者が逃げてきたのだろうか。
そんな事を考えていると、白衣の男が転び、怪我をした。
護衛が首を刎ねられてしまうというのと、お礼目当ての打算がなかったとは言えない。
とにかく、傷を癒す呪文を唱える。
すると白衣の男はキョトンとした。
ああ、この種族は魔法が使い難いだろうなと思う。なんと強固な殻で覆われているのだろう。
だからか、彼らは大喜びで異国の言葉で私を称えた。
そして、小さな怪我をしては見せてくれと怪我を押し付けてくる。
あまりに大袈裟に喜ぶので、傷を作ろうとする手を止めて、火の玉を出す術を使って見せてやる。
もう拍手喝采大喝采だ。こんな細やかな技でここまで褒められると、顔が赤くなってしまう。
彼らは身振り手振りで、遠くから来た旨を伝えて、外でキャンプをしていること、一緒に食事をしないかと誘ってきた。
恥ずかしながら、一食でも浮くのなら嬉しい。
誘いに乗ると、街の外にぐいぐいと引っ張っていかれる。
まるでこどものように無垢な種族だ。魔法が使えないが……。
無詠唱で、ビックボアに炎の槍をぶちかますローブの男が笑顔でこちらに手を振った。
丸耳だった。
は!?
彼らは異国の言葉で会話し、同じくその男は私を褒め称えた。
意図がわからずなんとか身振り手振りで会話する。
いわく、丸耳族は一部の者が一つの種類の魔法しか使えないから全然すごくないらしい。
ただし、無詠唱。
無詠唱である。
そんなチートがあるか。詠唱は絶対に必要なはずだ。
しかし、彼らの場合は詠唱は必要なく、単に格好いいから技名を叫ぶらしい。
は?
ふざけんな、無詠唱の意味がないだろ。攻撃のタイミングを知らせてどうする。
そこに、ビックボアが飛び込んできた。
さっと緑の人が黒い杖をむける。すると、杖がヒュンッと跳ねて、轟音と共にビックボアが倒れた。
『ちょっと量多くありません?』
『炊き出しでもしますか?』
何事もないようにいうが、無詠唱だった。
私の魔法よりはるかに威力が上なのは言うまでもない。
しかし、これは武器がすごいから私の方が凄いのだという。
私はそうは思わない。
私は、だんだん目の前のもの達が恐ろしくなった。
だが、彼らはにこやかに、ガッチリと私を抑えつける。
「まあまあ、オチツイテクダサイ」
短い間に言葉も習得しつつあるようで、片言で宥められる。
反則なまでの力と頭脳と文明を持つ彼らとの関係は、遺憾ながら長く続くこととなる。
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