命をかけたリンゴ
栗眼鏡
リンゴ
博多の塩20XX年 全世界に同時発生した
超巨大台風【文明殺し】それは一ヶ月間、勢いを増し続けながら全世界を襲い。木々を薙ぎ倒し、家はもちろんあらゆる建造物を粉砕し、文明殺しが過ぎ去った後などんな高度な文明も、さら地に還り何も残らない。
文明殺しが過ぎ去ったあと残ったのは何もないさら地と枯れ果てた大地だった、世界の人口は約20%にまで減少したがそれでもその20%の人間全ての飢えを満たすほどの食糧は残されていなかった。
残った人々は集落を形成するが、残り少ない食糧をかけて集落同士あるいは集落内でも争いが起きた。
チッ、俺はりんご一つに何やってんだろうな…
男の手には一発で人の命を奪うこともできる漆黒の拳銃が握られていた。
文明殺し以降あらゆる施設が破壊されたためか、このように「普通」なら絶対に手にすることのないようなモノも強風にのって手に入るようになってしまった。
男は今、隣の集落とたった一つのリンゴをかけて命のやりとりをしていた。
男も昔、小さな集落に属していたのだが集落内で裏切り者が現れ、食糧を奪われ男の集落は崩壊した。
男はその後、拾った拳銃一つで他集落を強襲し食糧を強奪するという生活を続けていた。
クソ、リンゴを奪うとこまでは良かった。だが下手をした、見張りに見つかり集落の用心棒と思われる男にマシンガンで襲われ、咄嗟に近くの小屋に隠れざるをえなかった。
まだあの男のお足音がする。
マシンガンは強力だ弾をかなり消費するが銃の使用経験がなくても反動に対応できる筋力さえあれば相手をよく狙わなくても簡単に殺せる。
現に男も足に銃弾を二発くらっていた。
血の跡を消す余裕はなかった、ここが見つかるのもそう長くはないだろう。ここまでか、俺の人生リンゴ一つで終わるのか…
あの嵐が来るまではこんな生活想像できなかったな。
男は昔しがないただのサラリーマンだった。しかし、あの嵐以降生活は一変した。常に死と隣り合わせの生活、飢えが腹を襲い、寝込みを仲間に襲われる。
俺の人生がこんな終わりを迎えるとは夢にも思わなかったな。
用心棒の男の声が聞こえてきた。
どうやら血の跡をを見つけたようだ。
もっと生きたかったな。
ドアが開く音がする。
男は銃口をドアへと向ける。
ドアが開いた瞬間引き金を絞るように握る。
瞬間。パン。
乾いた音と同時に腕に衝撃が伝わる。
あたり何処が良かったのだろう、額に穴を開けた男がそこに倒れていた。
即死だ、あと1秒いや、もっと短い時間撃つのが遅ければ倒れていたのは自分の方だっただろう。
しかし、もう間に合わない。
発砲音を鳴らした。
すぐに別の人間がここに来るだろう。それまでの間、残りの人生で何をしよう。逃げるという選択は思いつかなかった。足がもう動かないのもそうだが
ここが潮時だと思った。
文明殺し以降しぶとく生きてきた、人道から外れるようなこともいくつもした。もう十分生きた。
そう思えた、そういえば昔最後の晩餐は何が良いという話を誰かとしたな、今手元にはさっき奪ったリンゴと雨水から作った水がある。
俺の晩餐はこれで決まりだな。
破れた窓から月明かりが差し込む、奪い取ったリンゴは甘酸っぱく齧り付いたとこから果汁が溢れてきた。
上手い。雨水も戦闘で乾ききった喉を優しく潤してくれる。
こんな世界になっても変わらず飯は美味いな。
外からさっきの男とは別の声が複数聞こえる。
そろそろか
男は静かに目を閉じた
命をかけたリンゴ 栗眼鏡 @hiro2022
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます