サクラサク*2*Side:Teacher
なんて、厄介な奴だろうと思っていた。
授業は寝ているか、内職をしているかの二択。
テストはいつだって赤点で、
それゆえに発生する補習にも出ることはなく、
派手な格好で高校生活を謳歌する生徒。
それに他の先生たちは、自分の評判に傷がつくことを恐れて
様々な形で叱責、非難を続ける。
当然と言えば、当然だ。
義務ではないからと言って、
教師が手放しで己の道だから思うがまま、在るがままでいろと
応援するはずがない。
「国」の監視下に置かれた「公務員」は
「常識」という名の籠の中でも見られるような
安全で安心な道だけを応援する。
その後のことなんて、どうだっていいのだ。
そこに辿り着くまでだけが、請け負った責務なのだから。
例え、その後に何かあったとしても、
「当時はそんな子じゃなかった」の一言で片が付く。
大事なのは「確かに正しい道を指し示した」という事実だけ。
気持ちはわかる。そうなってしまうのは理解できる。
でも、それが正しいかと言われれば、頷くことは出来ない。
未来ある若者を潰し、
自分の限りある未来を少しでも良くしたいという
大人たちの保身でしかないとも言えるからだ。
そして、不意に見てしまった全てを閉ざしてしまったかのような顔が
俺に、他の先生方と同じになるなと阻んだ。
正直、熱血教師とかじゃないし
生徒とのコミュニケーションも積極的に取るタイプでもない。
必要最低限の仕事はするけど、それ以外ははっきり言ってしない。
…んだが。
放課後の図書室で
こっそりと、並び立つ本棚に隠れながら
膝を抱えて蹲っていた彼女を見て、
救ってあげたいと思った自分がいた。
手を伸ばしてみれば、
見た目に反して彼女は弱い子で、
大人の言葉の裏を、ある意味で正確に捉えてしまうような
繊細な子だった。
「別に、そのままでもいいんじゃねぇの。
大人が何言ってようが、やりたいようにやって。
道なんか沢山あるだろ」
俺は一体、どうしたっていうんだ。
頭なんて撫でて、こんなことを言って。
責任なんて、とれないのに。
お前も、そんな嬉しそうな顔をするんじゃない。
そこからの彼女はまるで、人が変わったようだった。
あれだけ不真面目だった勉学に励みだし
何かしらの成果を得ると、嬉々として報告に来るようになった。
─そして、超難関校を受験すると言い出した。
やりたいことをやれといった俺も、
流石にそれは厳しいだろうと言わざるを得なかった。
最早、無謀と言っても過言じゃない。
ここ最近の努力は目まぐるしく、素直に凄いと思っている。
だけど、そこを目指すには遅すぎる。
何も、そこじゃなくたっていいだろう。
そんな「教師」を目指す奴らが集まるようなところじゃなくても。
就職に有利になるだけの大学なら、他に幾らだってある。
そう言っても、彼女は絶対に諦めないと言う。
他の人が、同じことを言ってもいいけれど
先生だけは、私を信じていてほしいと。
その真っ直ぐな瞳に、俺が抗えなくなっていたのは
いつからだろうか。
残り少ない時間はあっという間に過ぎていく。
宣言通り、彼女は最後まで諦めなかった。
不安と戦いながら、
真剣な横顔に疲労を浮かべながら、
それでも、最後まで絶対に。
だからこそ、忘れないだろう。
合否発表の日に、人目をはばかることなく
笑いながら涙を流して、俺の前に現れたお前の姿を。
本当に、誇りに思うよ。
そして、一気に大きくなって
この先の未来、俺の知らないところで笑っていることを
寂しくすら思う。
なんて、いつの間にかこんな風に存在が大きくなってたとか
現役時代にだってなかったぞ。
どうしてくれるんだ、まったく。
今日という日に、校舎裏になんて呼び出されて
そんな顔をされて、何を言われるのかなんてわかりきってる。
それこそ、「常識的に」認められないことだ。
「私…、先生のことが…!」
でも、そうだな。
そんな「常識」に縛られるのも、今日で終わりだ。
だから、その先は俺に言わせてほしい。
「卒業おめでとう。
…ずっと、お前のことが好きだったんだ」
この先の未来、ずっと二人で咲き誇る桜を見ていこう。
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