第7話 バラに興味を持つ長男

 カーライル家は庭園も広大だ。


 噴水と大きな東屋がある西側の庭と正面道路を挟んで東側にはバラの庭園がある。バラの庭園の奥には温室とバラの育種の為の圃場がある。


 先代の侯爵様が個人でバラの育種をされており何点かの作品を発表されていた。しかし先代が亡くなられてからは圃場はただのバラの畑になってしまっていた。


 だが旦那様の新しい家族のお一人がバラに興味を示された。今日もバラの庭園に遊びにいらして花を眺めたり香りを嗅いでいらっしゃる。


「おはようございます、レナード様」


 私は帽子を脱ぎながら挨拶した。


「おはよう、えっと…」


 レナード様は振り返りながら私に会ったことがあるだろうかと少し戸惑っておられるようだった。


「筆頭庭師のベンでございます。レナード様は薔薇にご興味がおありですかな?」


「うん、こんなに沢山のバラは見た事がなかったしこんなに色々な種類があるって知らなかったし香りにも種類があるんだね」


「はい、バラは何万という種類がございます。先代の侯爵様がバラの育種をされておりまして温室や圃場もございます。よろしければご案内致しましょうか?」


「ありがとう、見てみたい」



 この日からレナード様は毎日のように私のところへ来てバラについての質問をされるようになった。そしてバラの育種の勉強を始められ、学園がお休みの日は長い時間を庭園で過ごされた。


「ではレナード様、今日は実際に受粉を試してみましょう。このガラスのシャーレに花粉親にしたい花の花粉を集めます」


 細長いスプーンのような物でシャーレに花粉を落としていく。花粉がほぼ出ないバラもあるので、そういったバラは何個もの花から花粉を取るしかない。


「次に受粉させたいバラの雌しべにこの筆で花粉を丁寧につけ、他のバラの花粉と混じらないように薄い紙袋を被せて裾を閉じ、紐で縛ります」


 花弁数が多いバラは雌しべが見えるまで花弁を取り除いて受粉させる。レナード様は手先が器用で細かい作業も難なくこなせているようだ。


「これで秋に出来た実から種を取り、小さめの鉢に植えます。初めは一つの実から4つほどが管理しやすいでしょうな。慣れてきたら沢山の実から種を取り、植えていかれるといいと思います。」


 地道な作業は忍耐力がいる。だがレナード様は育種について熱心に勉強され毎年少しずつ育種の腕を上げていかれた。


 弟のウィリアム様も兄の熱心な様子に興味を示され、一緒に受粉を試されてみたが性に合わなかったらしく


「うわーだめだ。ちまちました作業をしてたら鼻がムズムズしてきた。兄さん、僕には無理みたい」


 花粉が鼻に入ったのかくしゃみをしながら早々に邸宅に戻って行かれた。ウィリアム様は乗馬をされたり剣術の訓練をされるのがお好きなようだった。

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