第2話 新しい家族

 母がいる場所は庭園の開けた所で、ベンチやイスが沢山置いてありテーブルの上にはティーセットといい匂いを漂わせる甘いお菓子が並べられていた。

 

 ベンチの傍らに背の高い紳士が立っていた。先ほどの天使のように輝く黄金色の髪をして優しく僕たちに笑いかけていた。にこにこと笑いながら僕たちのそばまで歩いてきて片膝をつき僕に手を差し出した。


「私はジョセフ・カーライルと言います。はじめましてレナード君。」


その紳士は僕にも大人の対応をしてくれた。他の大人たちのようにわしゃわしゃと、いきなり頭をなでたりしなかった。僕も行儀よく差し出された手を握り返し、


「レナード・リンドルです、はじめまして。隣は弟のウイリアムです」

「うぃりあむです!」


少し緊張している僕と違ってウイリアムは元気いっぱいだ。にこにこしているジョセフにつられて彼もにこにこと気分が良さそうだ。


「お腹は空いているかな? さあおいしいものを沢山食べよう」


ジョセフはウイリアムを抱きかかえベンチに座らせ、僕にも座るように促した。凝った彫刻が施された鋳物の白いベンチは冷たくて座り心地が悪そうだったが分厚いマットレスやふかふかしたクッションが沢山置いてあり全く問題がなかった。


 僕たちが座るとほぼ同時に一人の侍女がやってきた。


「旦那さま、お嬢様をお連れしました。」


侍女の後ろからひょこっと天使の顔が覗いた。弟が今度は僕の服の裾を引っ張って囁いた。


「さっきの天使だ!」


ジョセフが天使を手招きした。

「フロウ、こちらにおいで。みなさんに挨拶して。」


侍女の後ろから小動物のように駆け寄ってきたその天使は執事に抱えられて椅子に座った。近くで見ると僕よりは年下のように見えた。ふわふわの髪は緑に囲まれた庭園を背景にまぶしく輝き、透き通るような白い肌と深い森の結晶のような緑の瞳を持った天使だった。


「フランシスです。はじめまして」


はにかんでうつむき加減に挨拶をしている姿は子供の僕が守ってあげたいと思うほど可憐だった。


 僕たちはミルク、母たちはお茶とそれぞれお菓子を堪能しながら楽しくおしゃべりをした。

 

 僕はあまりしゃべらなかったと思う。隣でウイリアムがミルクをこぼしたり、口の周りにお菓子をくっつけたりしてその世話が忙しかったせいもある。

 母は放任しているというより僕が弟の世話を焼くのをうれしく思って見ている。それを僕も知っている。


 そして忙しく世話するふりをしてこっそり天使を盗み見たりしていた。あの緑の瞳を見つめながら話すなんて恥ずかしくて緊張して何を話していいか分からなくなるに決まっている。

 

 色んな驚きと新しい家族に会った緊張が入り混じり、バラの香りに彩られた5月のあの日は僕にとって忘れられない一日となった。


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