第16話


「はぁ⋯⋯」


 少し寄り道した公園のベンチにて。

 深くため息をつきながら私は馴染みのクレープを頬張っていた。


 いつもなら馴染みのベンチ、そしてこの馴染んだ味を馴染んだ人と楽しんでいるはずだったのに。

 私はイチゴ、彼はチョコ。昔から決まってそれだった。


 彼がいないのだから一口もらって味変することもできない。

 ⋯⋯長いこと一緒にいて慣れてるはずなのに、今更彼の奇行に苛立ちを覚えてしまった私が悪い。

 いや、急に私を避け始めた向こうも悪いのでは?


 ⋯⋯このまま善一くんと話すことは無くなってしまうのだろうか。

 いや、今から謝れば間に合うだろうか⋯⋯。


「あぁ⋯⋯どうすれば⋯⋯」


 また熟考してしまった。

 悩み事があると周りが見えなくなってしまう私の悪い癖だ。

 まあ周りが見えなくなってなにが悪いのかと言えば———


「——ねえ、君。1人でクレープ食べててどうしたの? 大丈夫?」


「⋯⋯はぁ」


 このように、周りへの注意力が欠けてしまい、ナンパに遭遇するのだ。

 普段から周りには気を張っているので、ナンパされそうものならされる前にその場を離れるのだが、このように隙を見せるとナンパされる。


 なのでこの癖は良くないと私自身分かっている。

 ⋯⋯まあ、悩みなんて善一くん関連しかないので根本的な話を言えば善一くんが悪いのかもしれないが。

 いや、これは責任転嫁か。


 今回のナンパは単独犯だ。

 金髪で焼けた肌とガラが悪そうな見た目をしているし、何より佇まいが頭悪そうだ。


 それに、1人でベンチに座っている制服を着た女子高生によく声をかけられるものだ。

 そこにはある意味感心する。


「もしもーし。聞こえてる?」


「あぁ⋯⋯はい、聞こえてますよ」


「暇なら俺と遊ばない? そうだ! カラオケとかどう?」


「すみません、お断りさせていただきます」


 何故知らない男と2人でカラオケに行かねばならないのだろうか。

 善一くんとですら行ったことないのに。


「え〜いいじゃん! てか君声も可愛いね! 歌聞いてみたいな〜」


「何故あなたのために歌わなければならないのですか?」


「いいからいいから! とりあえず行ってみよーよ! 君可愛いし奢るって!」


 会話は無駄だと察したのか、一向に立ち上がる気配のない私の手を強引に掴む男。

 男はそのまま力強い腕力で私を立ち上がらせた。


 ⋯⋯もし、私がここで反撃したら正当防衛で済ませることができるだろうか。

 生憎私は機嫌が悪い。

 ここで長年習ってきた護身術を———


「———ちょ、ちょっと待ったー!!」


「⋯⋯ん?」


「⋯⋯ぜ、善一くん?」


 ど、どうしてここに⋯⋯。



————————————————————————


 あけおめです。

 お久しぶりです。

 描きたくなったので続き公開です。

 ことよろです。

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