第14話


 白瀬に無視をされた次の日。

 今日は白瀬に何も言わず1人で登校してきた。

 ここ1週間は断りの連絡を入れていたのだが、もう必要ないだろう。


「あぁ〜⋯⋯」


 そして、俺はもう白瀬にとって必要のない存在なのだろう。

 いや、そもそもいじめっ子の存在なんていらないか。


「お〜い、善一? 本当に大丈夫か?」


「大丈夫じゃない⋯⋯」


「やっぱ引きずってたか⋯⋯」


 優斗は俺が昨日白瀬にスルーされていた現場を目撃している。

 優斗は呆れたように溜息をつくと、俺の隣の席の椅子を勝手に借りて俺に寄り添った。


「いい加減相談ぐらいしてくれよ。流石の俺もお前と本当に友達かどうか自信を失いそうだからさ」


 そういえば優斗はいつも相談するかどうか俺の意思を尊重していてくれた。

 こんな良い友人に相談しないのは損だし、いい加減1人で抱えるのも辛い。


「実は———」


 俺はなぜ白瀬を避けるようにしたのか。

 その経緯や会話まで全部優斗に話した。

 多分口硬いだろうし。



 ♢



 

「———というわけなんだが⋯⋯」


「⋯⋯」


「⋯⋯? なんだよその顔」


 話を進めるにつれ、優斗の顔が次第にピクピクと顰めっ面へと変化していくのが見てとれた。

 え、俺変なこと言った?


「お前って⋯⋯つくづく思うけど凄いな」


「はあ? なんの話だよ」


「まあいいや⋯⋯。それで、白瀬さんに好きな人がいるから関わるのを控えようと思ったんだな?」


「ああ、そうだな」


「⋯⋯はあ、マジかよ。白瀬さんってマジで苦労してんだな」


「まあそりゃ俺といういじめっ子がいるからな」


 そう言うと呆れた顔で大きくため息をつく優斗。


 いやなんでため息つくんだよ。

 ていうか、知り合いの異性に好きな人がいたら誰だって付き合いを控えるだろ。


「いいか? 言っておくがお前は白瀬さんの好きな人とか気にしないで今まで通り一緒にいてあげるだけでいいんだよ。変な気遣いはよせ」


「はあ? そんなの白瀬に悪いだろ」


「いや腐っても自称不良なんだからそんな良いこと言うな」


「自称じゃねえ」


 いや、今のところ自分以外で不良と認めてくれた人はいないのだが。

 悲しいな。


「⋯⋯っていうか、いじめられっ子の恋路を気にしてくれる優しいいじめっ子がどこにいんだよ」


「⋯⋯たしかに」


 言われてみればそうかもしれない。

 普通だったら逆にそこにつけ込みそうなものだが⋯⋯


「⋯⋯俺ってもしかして結構甘い?」


「ああ、甘々だな。そしてじれったい」


「いや意味がわからん」


 さっきから優斗と会話が噛み合ってない気がするのだが。

 こいつ日本語下手か? 今まで気づかなかったが。


「とにかく、お前は不良として甘すぎる。どうだ? ここで1つ久しぶりに白瀬さんをいじめ(笑)をするのは」


「⋯⋯たしかに。⋯⋯ってか、(笑)ってなんだよ」


「気にすんな」


 相談に乗って腑に落ちない点はいくつかあるが、しかしスッキリしたような気もする。

 自分がこれからどうすれば良いかやっと見えてきた。


「じゃあ白瀬に好きな人がいようと俺は無視して白瀬をいじめ続ければいいのか!」


「ああ、そうすれば2人とも幸せだ」


「2人とも? 俺はまだしも白瀬は幸せなんかじゃないだろ」


「あー、はいはいそうだったな」


 優斗の俺に対する扱いが段々雑になっていったのを感じたのでここで立ち去ろう。

 白瀬にも会いたくなったし。


「⋯⋯あーそうだ善一。1つ聞きたいことがあるんだが」


「⋯⋯? なんだ?」


 振り返ると優斗が真剣な面持ちで俺を見つめていた。


「お前、白瀬さんとしばらく離れてた時になんで自分が落ち込んでたかわかってるのか?」


「なんで落ち込んでたか⋯⋯」


 たしかに俺は白瀬と関わるのを控えようと思った時、そして関わりが減っていた時は毎日が憂鬱だった。

 なぜと聞かれるとわからないが⋯⋯。


「⋯⋯わからん。多分だけど、俺は根っからの不良だからしばらく白瀬をいじめられなくてストレスが溜まってたとかじゃないのか?」


「⋯⋯はあ、まあお前がそう思うからそれでいいよ。行ってこい」


「⋯⋯? ああ、行ってくる」


 俺は妙な疑問を抱えながら、手をパタパタと振る優斗を背に走り出した。

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