第5話

――――次の日の朝。



 いつもより集合を予定通り15分ほど遅らせての登校。

 いつもは人気が少ない早い時間なので、遅らせたぶん通学路に人が多い。

 校舎に近づくにつれ人もさらに増える。登校ラッシュだ。


 心なしか男子生徒から殺気を向けられている気がするのは気のせいだろうか。

 周りの男子生徒がみんな心の中で俺を呪っている気がする。

 白瀬が隣にいるからだろうか。


「よ、よし。とりあえず俺は先に教室に行ってるから」


 ここは一時退却。

 学校までは送ってやったから教室には一人で行け。

 そう思いながら離れようとすると


「! 待ってください!」


 途端に白瀬が俺の手を掴んだ。

 そんな所を見られてまた男子生徒の殺気が増す。


「し、白瀬? ちょっとこの手を離してくれないかな?」


「絶対に離しませんよ。ふふっ、えいっ」


「うわちょっ⋯⋯」


 掴んでいただけの俺の手に、今度は抱きついてきた。

 左腕にはとても柔らかい感触がきて、途端にフローラルな良い匂いもしてきた。


「ちょ、白瀬離れろ! こんな所でなんてことを⋯⋯」


「ふふっ、みなさん見てますね」


 俺の話は無視で白瀬は周りをニマニマと見ていた。

 写真を撮っている奴なんかもいて、こっちは気が気じゃない。


「い、いいから離れろって。これは密着しすぎだ」


「どうしてですか? いつもはもっと密着しているのに⋯⋯」


「は、はぁ!? 何言ってんだお前!」


 心当たりのないことを言われて反論する。

 白瀬の発言で周りの空気は凍り、静かな空間で俺と白瀬だけが喋っていた。


「この前だって、私の家で私のことを強く抱きしめてくれたじゃないですか」


「あ、あれは白瀬が『私のことを強くホールドしてみてください』って頼んできたからだろ!」


「でも結局優しく抱きしめて、終いには撫でてくれたじゃないですか」


「それはその⋯⋯」


 何も言い返せない。

 周りから会話を聞かれてるぶん、言い返さないと駄目なはずなのにまったくの事実すぎて何も言えない。

 周りからは「白瀬さん彼氏いたの?」とか「あの男死ね」とか聞こえてきた。


「では、このまま教室に行きましょうか」


「え!? 無理無理。流石にやばいって!」


「別にいいじゃないですか。減るもんじゃないんですし」


「後で俺の命がめっちゃ減るんだって!」


 そう言いながらいつもより強引すぎる白瀬は俺の腕に抱きつきながら廊下を歩いた。

 友人からも白い目で見られたのは言うまでもない。


「ここまでで大丈夫ですっ。また放課後も一緒に帰りましょうね」


「俺が生きてたらな⋯⋯」


 白瀬を教室まで無事送り届け、自分の教室に戻るとそこには鬼の形相をした俺のクラスメイトがいた。


「関根⋯⋯さっきのはどういうことだ?」


「こ、これはその⋯⋯クソ! 喧嘩上等だコラ!」


「来いや! 20対1で勝てると思うなよ!」


 そんなこんなで、我がクラスでは朝から集団リンチが行われたという。

 一体白瀬が何をしたかったのか俺はわからなかった。

 今までのいじめの仕返しとかだろうか。


 その後、告白してきた女子からは無かったことにして欲しいと頼まれ、白瀬も告白されるのが減ったという。

 白瀬の目的が一瞬垣間見えたような気がした。

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