第4話

さらに3年後。

 俺は小学生の時に宣言した通り、ずっと白瀬といるべく同じ高校に進学した。

 白瀬もお気の毒だ。


「白瀬、高校も一緒だな。ドンマイドンマイ」


「なんでですか。善一くんが受験に合格した時はハグだってしたじゃないですか」


「ちょ⋯⋯! そんなの覚えてねーよ!」


 なんていうか白瀬はとても大人になった。

 中学の頃にも成長は感じたが、今は顔立ちも大人びてきてとても綺麗になった。

 口答えとかも増えてきた気がする。俺舐められてる?


「白瀬は高校生になってしたいこととかあるか?」


「そうですね⋯⋯たくさんしたいことはありますが⋯⋯」


 顎に手を当てて真剣に考える白瀬。

 すぐに「あっ⋯⋯」と思い付いたようでこちらに向き直した。


「進展したいですね」


「進展?」


「はい、高校生なのでもう少し前に進みたいです」


「⋯⋯? よくわかんないけど頑張れよ」


「はいっ、頑張りますっ」


 俺が馬鹿なばっかりに、白瀬に共感できないのは申し訳ないが向こうは気にしてなさそうなのでよかった。

 高校生になって環境や扱いも変わってきた。

 しかし、俺と白瀬は変わらず今までと同じように話して過ごした。いじめる回数は心なしか減った気がするが。



 ――――ある日。



「告白された⋯⋯ですか?」


「そう、ついさっきな」


 今は下校中。

 いつもは他愛無い話をする俺たちだが、今日の話は一味違かった。

 なんせ俺が人生で初めて告白をされたのだ。自慢したくもなる。


「り、理由とかは言っていましたか? 善一くんのここが好き〜とか」


「あー、言ってなかったよ。ただシンプルに『好きです付き合ってください』って言われた」


「心当たりとかはっ? あの子にこんなことした〜とか」


「やけに食い気味だな⋯⋯」


 白瀬のいつもではあり得ない食い気味な反応に困惑しつつ、思い当たる節を上げていく。


「この前、不良に絡まれてるところを助けてやったな」


「なるほど⋯⋯」


「んで、その後縁ができて勉強も教えてやった」


「⋯⋯なんというか⋯⋯」


 白瀬がピタリと立ち止まり嘆息した。

 ジトリと視線をこちらに向けて


「やってることが不良っぽくなさすぎですよ⋯⋯今更ですが」


「え、そうか?」


「はい⋯⋯助かるのはまだしも、普通勉強を教えませんよ不良は」


 自分を否定された気がするが、何故か納得してしまった。


「これでは善一くんがモテるのも時間の問題ですね⋯⋯」


「え、なんて?」


「いえ、なんでも」


 顎に手を当てながら、ブツブツと何かを考えている白瀬。

 数学の応用問題を解く時より考えていた。

 しばらくすると、白瀬も何か思いついたようで手をポンと叩く。


「明日はいつもより遅く登校しましょう。15分ほど遅らせて」


「え、なんで急に⋯⋯別にいいけど」


「夏になって悪い虫も増えてきました」


 そう言いながら立ち止まっていた白瀬は俺に近づいてくる。


「虫除けですっ」


 人差し指をピンと立てて放った白瀬の笑顔は、どんな虫も近寄らなさそうな眩しさがあった。

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