第3話
それから数年が経って、俺と白瀬は中学生になった。
「白瀬! 中学も同じとはお前も運が悪いな!」
「はい、また一緒ですね。善一くん」
年齢を重ねるごとに気付いたことがある。
白瀬は多分、嫌な時に笑顔を作るんだと思う。
じゃないと、俺と同じ中学と知った時に笑うはずがない。
「白瀬、今度の期末対策手伝わせてやるよ」
「はい、喜んで」
(⋯⋯なんで嫌がらないんだ⋯⋯?)
なんて疑問も頭をよぎったが、俺は今まで通り白瀬の悪になりつづけた。
中学に上がってから白瀬はモテ始めた。
幼い顔立ちのまま成長し、体にはしっかりと肉がついてきてスタイルも良くなった。
何より笑顔が増えた白瀬は、その笑顔で多数の男子生徒を魅了してきた。
どっちが悪役なんだか⋯⋯
「白瀬、今日の放課後暇か?」
「暇ですよ。どうかしましたか?」
「帰りに買い食いをしよーぜ! 校則じゃダメなんだが⋯⋯俺は不良だからな!」
「そうですね、では私も行かせてもらいます」
(⋯⋯あれ?)
本当は白瀬が嫌がると思って提案しただけなのに、逆に嬉しそうに笑って承諾されてしまった。
本当に良いのか? 優等生だろお前。
クラスが違うのでお互いの近況を話し合いながら駅前の大きな公園へと向かった。
そこには移動販売をしているクレープ屋があって、そこで買い食いをすることにした。
俺はチョコ、白瀬はイチゴを買って近くのベンチに座った。
「美味しいですね」
「あぁ、やっぱチョコこそは至高だ」
「不良っぽくないですね」
「⋯⋯むぅ」
そんなことをクスッと笑いながら言う白瀬だったが、悪い気はしなかった。
だけどちょっと癪に触ったのでここでも悪執行だ。
「⋯⋯あっ」
「むふふ⋯⋯ゴクッ。意外とイチゴも美味いな」
目の前でクレープを一口頂き、飲み切った所で笑顔を見せる。最高の悪だ。
ドヤ顔をかましていると白瀬もプクーッと頬を膨らませたので効果覿面だったようだ。これは手応えあり。
「はむっ⋯⋯」
「⋯⋯あっ、お前⋯⋯」
「ん⋯⋯ゴクッ」
同じように一口取られてあっけらかんとしていると、飲み込んだ白瀬はこちらを向いてニコッとした。
「間接キス、ですね」
「〜〜〜!! な、なん⋯⋯だと⋯⋯!」
白瀬の悪戯な笑顔がよっぽど俺より悪役らしくて。
悔しいとかいう感情より別のものが自分の中で湧き出ていた。
「し、白瀬。そんな高度なこと、色々と不味いぞ!」
「なにがです?」
「いや、その⋯⋯白瀬めっちゃモテるしこんな所見られて勘違いされたら⋯⋯」
「⋯⋯されたら?」
「⋯⋯白瀬の評判が落ちるかもしれないし⋯⋯もしかしたら学校に馴染めなくなるかも⋯⋯なんて」
そんなことを思わず口走ってしまって、お互い気まずい沈黙が流れた。
「ぷっ⋯⋯」
そんな沈黙を破ったのは白瀬の溢した小さな笑い声だった。
「お、おい⋯⋯! 何がおかしいんだよ」
「いえっ、言ってることが⋯⋯不良っぽくなくて⋯⋯ふふっ」
「ちがっ⋯⋯それは⋯⋯お前の笑顔を絶望の顔に変えたいから、学校生活を楽しんでもらわないと困るんだよ!」
これは本心だ。本心のはず。決して誤魔化しなんかじゃかいはずだ。
だというのに気持ちが落ち着かない。動揺しているからか?
「それならそれでいいですけどっ」
「なんで笑ってんだよ」
「いえ、善一くんは本当に善一くんだなって」
「⋯⋯よくわかんねー」
訝しげに睨むが、白瀬は笑い続けるだけだった。
小学校の頃はあまり笑顔を見せなかった白瀬も笑うことが増えてきて嬉し―――いや、由々しき事態だなこれは。
不良としてもっと精進しなければ。
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