10
男の戒めから解き放たれた彼女はゆっくりとふらつきながら後ずさり、足にふんわりとした感触がして、部屋にあるソファーにへたり込んだ。
安堵感とともに疲労感が襲ってきて、彼女は大きく何度も深呼吸をし、男を視界に移す。
「説明、してくれるんだろうな」
「えぇ、勿論」
男はそれまでとは違い、酷く優しい表情を見せて部屋の隅にある冷蔵庫を開けて飲み物をコップに注ぎ、彼女の目の前においた後、真っ直ぐ見つめる彼女の前に椅子を持ってきて腰をおろした。
「貴様は何者だ」
「自分は、貴女を創りだした男の成れの果てです」
「私を作り出した男だと? そんなはずはない」
「何故ですか?」
「私はブレイブセンターが作り出したものだ。出荷番号がその証。何よりすでに人という生物の枠を超えて化け物のように生きている。万が一にも私を創りだした奴が居たとして、私と同じ様に化け物でなければ生きているはずがない。にも関わらず貴様は私を人間だと言って自分とは違うものだと言わんばかりだ。では機械なのかと言えば、そうではないだろう? 私は機械人間がどんなものか知っている。すでにこの世にない技術だが、貴様のその瞳はとてもアンドロイドだとは思えない」
彼女がそう言うと男は悲しげな笑みを向けた。
「ですから、成れの果てといったのです。貴女の言う通り、貴女をを創りだした男の肉体はすでにこの世界には無い。あるのは思考と意志のみ。確かに、自分は完全なるアンドロイドではない。でも、アンドロイドに近しい存在です」
「また謎かけでもしようというのか?」
「いえ、その言葉のままなのです。自分は貴女を創り出した男です、しかしながら彼はブレイブセンターにて生産された男。生きているわけがないという貴女の答えは正しい」
男が先程から言う「創り出した」という一言、それは彼女を動揺させていた。
ずっと自分は他と変わらずブレイブセンターが作り出したものだと思っていたが、もしかするとブレイスセンターの管理下で生み出されたのではないかもしれないと思ったからだった。
ブレイブセンターが生み出したのでなければ、この異様な自分の体の意味も頷けるような気がしたが、この厳重な管理体制がある世界でそんなことが可能なのだろうかと、彼女の中にまた一つ疑問が追加された。
男の言葉や行動の一つ一つに疑問が追加されていきながらも、彼女は男の話をじっと聞く。
回りくど言い方に、いいかげんにしろとこの場を立ち去ることは簡単だが、何故かそれはしてはいけないような気がして、何より、自分の興味は男の口から出てくる言葉に集中してしまっていた。
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