「貴様は一体何者だ」

「その問いを私に投げかけるのであれば付いて来ることですね、全てお応えしましょう。貴女の疑問全てに」

 全て。

 自らがその口から紡ぐであろうそれがどんな問であるか、それこそ全てこの男はわかっているのだと彼女は感じ、男の言いなりになるのは癪だったが体の向きを変え、男の後について行くことにした。

 ただ黙って、睨みつける視線を止めること無く自分についてこようとする彼女の態度に「上々」と一言放ち、男は歩き出す。

 男はブレイスセンターを右手に獣道すらない草むらを、センターの塀に沿うように歩いて行く。

 こんなところに何が有るのかと思いつつ、彼女は男からわずかに間を開けて後ろを付いていった。

 ブレイブセンターと月のかすかな光があるとはいえ、真っ暗な道を男は迷いなく歩いて行き、彼女は足元を確認していたのもあり、付いていくのもやっと。

 暫くすれば、頬に潮風を強く感じ、断崖の方へ歩いているのだと分かって彼女は訝しげに男の背中を眺める。

「一体何処に行くつもりだ。そっちは絶壁のはず。自殺でもしようって居のうのか。悪いが付き合ってはやれないぞ」

「まさか、そんな事するわけがないですし、貴女が付き合えないことぐらい承知しています」

「……そうか。貴様は知っているということか。だとしてもこの先に幾ら歩いて行っても何かがあるとは思えない」

「ふむ、そうですね、貴女の歩みでは少々遠いかもしれません。人が来ない場所だと言っても何があるかわかりませんからね。目をつぶっていただけますか?」

「会話になってないな。何処に行くのかと尋ねたんだが」

「不安ですか? この世界で本当の意味での孤独となった時のように」

 男の言葉に彼女は目を見開き固まった。

 ゆっくりと胸に手を当て、自分の心臓の鼓動を確かめて「そうか、これは」と呟く。

 人と対することが無くなって随分経ち、感情を忘れていた彼女は自分の中に久しぶりに感情が生まれていることに驚いていた。

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