6
「やはり貴女でしたか。終わの中の始まりの番号を持つ者」
「確かめる」と言い、「やはり」と口にした男に彼女はじっとりとした視線を送る。
自分は知らないのに、この男は自分を知っているのだと確信したからだった。その事実に彼女の心臓が一度大きく鼓動する。
それが動揺によるものなのか期待によるものなのか彼女にもわからなかった。
「貴様は、私を知っているのか?」
絞り出すように問われた彼女の言葉に、男は先程までの表情をしまい込んで小さく息を吐いた。
「どうでしょう? それを知りたければついてきたらいいと思いますよ」
ついて来い、その言葉に誘われるように思わず、足が動き出しそうになったが、彼女はそれを意志の力でぐっとこらえて、男に背を向けた。
「どちらへ?」
「付いていく義務は無いんだろう。私は帰る」
「帰る? 一体何処に帰るというんです?」
鋭い男の声。
「一体何処に」その一言に全てがこめられている様な気がして、彼女は体を固まらせる。
「貴女に、帰る場所があるのですか?」
静かに響くその声の主を肩越しに、鋭く強い光を放つ瞳で睨みつけた。
彼女は、帰る場所があるのかと言われてはっきり「ある」とは答えられなかった。
当然だ。帰ると言ってもちゃんとした家があるわけでもなく、滞在しているその場所には家具家電があるはずもない。
暗く汚い地下、自分でかき集めたボロ布や木っ端で何かがそこに存在しているであろう痕跡があるだけ。
彼女自身わかっていた、仕方なく居る場所と帰る場所は違うと。
背中を向けたまま睨みつけてくる彼女にゆっくり近づき、男は微笑む。
「そう、貴女は分かっているはずですよ。あれが帰る場所ではないことぐらい。そして今は、私についてくるという選択肢しかないと言う事も」
男の強制的な物言いと微笑みに、自分の鼓動が早鐘のように鳴ってきているのを、なんとか理性という意識が抑え込んでいた。
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