5
「名など無い」
「無い? そんなはずはない。ブレイブセンターから出荷された人間は子をほしいと申請していた人間のもとへ送られる。その後、両親によって名を付けられ、管理センターにてブレイブセンターの登録に上書きされ、初めてこの世界に生を受けた事になるのです」
「それくらい知っている」
「では無いなどという答えこそ無いことがお分かりでしょう?」
「はるか昔、確かに私には名があった。だが長い年月の中、私は自身の名を忘れた。名というのは呼ばれることがあってこそ意味を成すものだ。故に今の私には意味のないものであり、無いものなんだ」
年齢を重ねようとも老いることもなく、死ぬこともない彼女は老いていく周りの人々と自分が違うと気づいた時、周りのものから姿を消し、自らの名を封印した。そして、その後、幾度と無く名前を変え場所を変え、別の人物として生きたが、それも当然、老いることのない限り長続きはしない。
とうとう彼女は人間から身を隠すように地下に隠れ住むようになり、名というものは必要ではなくなり、忘れてしまったのだ。
「そうですか、では、出荷時の識別番号はいくつですか?」
「それも忘れた」
「駄目ですよ、それは嘘でしょう? 後から付けられた名とは違い、出荷されたものが識別番号を忘れることはありません。識別番号という言葉と連動して記憶から引き出されるはずです」
男の言う通り、識別番号という言葉を聞いた途端、彼女の頭の中には数字と英語の羅列が浮かび上がる。
しかし、彼女はそれを言葉にするのをためらっていた。
「貴女の識別番号は?」
強い口調とともに男の顔が自らの目の前に現れ、男の瞳に月の光が入り込んで、怪しく青く光る。彼女は男の言葉に促される様に言葉を吐き出した。
「Z‐999‐00A」
彼女の言葉に男は大きく生きを吸い込んでゆっくり吐き出し、安堵したような雰囲気を出した。
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