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「偽善者を気取るならもう少し人通りのある所でやったほうが効果的だ」
「なるほど、今度偽善者を気取るときはそうしましょう」
彼女は皮肉を込めて言ったつもりだったが、男は笑顔でそう返し、腕を離すこと無く彼女を探るように瞳を見つめ返す。
ことさら澄んだ青色の、冷たさだけが感じ取れる瞳から目を背けたいのを必死で我慢し、睨み返し続ける彼女。
「挨拶をしなかったという事がそんなに嫌だったか? そろそろ手を離さないと臭いが移るぞ」
「あぁ、確かに、貴女は酷く汚れているからとても臭そうですね」
男の言葉に彼女は眉間に皺を寄せ、男の手を振り払うと少し距離を置いて男を今一度よく観察する。
「……お前、人間じゃないな」
「人でない? これだけ人間に近いというのに?」
にこやかに返してくる男に鼻息を掛けるように嘲りの笑みを浮かべた彼女。
「人間に近いという言い分は、自分を人ではないと言っているようなものじゃないか」
「フフフ……。そうともいいますね」
笑顔を絶やさぬ男に、彼女は視線をブレイブセンターに向けた。
「それで、何の用だ。ただ挨拶をしただけではないんだろう。と言うか、私に挨拶なんてするやつはもう居ない。声をかけた事自体が私に用があるということだ」
「えぇ、それはそうです。でなければこんな所に来たりしません。ここは人間が来る場所ではないですからね。そうですね、まず先に貴女の名を教えていただきたい」
「聞いてどうする?」
「確かめるだけですよ。果たして貴女は自分が探している人物なのかどうか。……名は?」
名を聞かれた彼女は笑いを奥にしまい込み、じっと答えを待っている男のほうを向くこと無く暫しの沈黙の後、口を開く。
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