第16話 明さん。それ本気で言ってる?

次の日の夜。



……


「どうしたんだろう?」


…………


「あんなねいね初めて見た」



今日のエンジェル・ハイロゥは

明らかに雰囲気がおかしかった。


ロボバトがキッカケて大盛況になった

店は当然ねいね目当てで来るお客様も多い。


そのねいねの様子が変だと店全体に

影響が出るのは当然の事だろう。



「はぁっ……」


事ある毎にため息をつき、


「あ、すみません……」


注文間違いも発生している。

どう見ても”心ここにあらず”な状態だ。


……


いつもは深夜配信がメインなのに

どうして最後の配信が夜8時からなの?


そもそも決勝戦が夜8時に

時間変更になるのがいけないわ。

いつも通り昼にやりなさいよ!


私はほづみ君の為にロボに乗って戦ってきた。

頑張って練習も欠かさずやってきた。


それなのに、こんな事になってしまうなんて。

もうロボに乗る理由なんて無いじゃない!


……


ねいねの頭の中では上の言葉が延々と繰り返されている。



「ねいねちゃん。 ちょっと休もう?」


「ううん。 身体を動かした方が気が紛れるから……」



ダメだ。 完全にメンタルやられてる。


初めてみるねいねの消耗しきった姿に

みぅは動揺していた。



「うわぁ。 本当にダメになってる」

「これは困りましたねぇw」



話を聞いて様子を見に来た同好会メンバーも

困った表情を見せる。


「どうした元気出せねいね!

 たとえ生配信が見れなくとも

 アーカイブがあるではないか!

 決勝戦が終わった後にアーカイブを見たら……」



「明さん。それ本気で言ってる?」



鋭い目つきで戸坂会長を睨むねいね。


「うっ……!」


その迫力に流石の戸坂も気圧される。



「ルールではパイロット変更は許されているんですよね。

 今から他の人にチェンジするのは可能ですか?」



ねいねは戸坂と内海に詰め寄る。



「サイズ調整の問題はありますが一応可能ではあります。

 しかし、実際にそれが出来るかどうかは

 あなたが一番わかるでしょう?」


「なら、体調不良という事にして

 不戦敗にでもすればいいでしょう!?

 どうせあいつには勝てないんだから!」


「そんな事が簡単に出来る訳無いだろう!

 それに戦う前から勝てないというのは間違っているぞ!」


「私にとってもう勝ち負けなんて関係ないんです!

 戦う理由はもう私には無いんですよ……」


自分の言葉で現実を改めて認識した

ねいねはそのまま表情を曇らせる。


「…………」


場の雰囲気がいよいよ怪しくなってくると

店長がねいねをバックヤードに呼び出した。


「あちゃー。行ってくるね」


バックヤードにトボトボ歩くねいねを

他の皆は心配そうに見送った。



「これは、最悪の展開も考えないとですね」

「まったくこれからクライマックスというのに!」

「ねいねちゃん……」


……

………


ねいねがバックヤードに来た時、

店長は椅子に座り黙々と事務作業をしていた。


今日の不甲斐なさに怒られると思っている

ねいねは無言で店長の言葉を待った。



「あー。ねいね。話は聞いている。

 ヘルプを呼んだからもう今日は帰っていいぞ

 気分転換に美味しいモノでも食べてゆっくり休んでくれ」


と言うと店長は財布からお金を出すと

それをねいねに渡そうとした。


「え!? そんな。私は……」


「今までの頑張りとお店への貢献を

 考えたらこれくらい当然だ」


「でも……」


「落ち込んだねいねをお客様に見せたくないしな。

 落ち着くまで休んでも構わないらその時は言ってくれ」


店長は有無を言わさないかのように

お金をねいねの手に握らせる。


「……」


「あと、決勝戦をどうするかはお前に任せる。

 どんな結論になっても俺からは何も言わないよ

 今まで最高のパフォーマンスをありがとう」


「あ、ありがとうございます……」



ここまでされたら私にはもう何も言えない。

ねいねはお言葉に甘える事にした。



私服に着替えて淡々と帰り支度をする。


「みぅ、ごめん。後よろしくね」

「う、うん。ゆっくり休んでね!」


みぅは無理矢理笑顔を見せて

帰るねいねを見送る。


「ねいねちゃん。私は……」



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【次回予告】

【12月5日更新!】


次回 推しVロボ第17話


私、私の事を推してくれる人の為に

ロボに乗って戦います!


お楽しみに!

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