第10話 い、言われなくとも勝ってみせますよ!

『追放天使を倒すのはこの私よ!』

『フィフネルの本気を見せてあげる!』



記事には伊集院まりぃの自信溢れる顔と

勇ましい言葉が並んでいる。


それを見て唖然とする知奈と浅野と岸田。

一方とても嬉しそうな戸坂会長。



「我々に挑戦状を叩きつけるとは良い根性だ!

 返り討ちにしてあげよう。はっはっは!」


「大会途中での参加って認められるの!?」



知奈の至極当然な疑問に内海は答える。


「元々パイロットの変更自体は認められていますが

 まさか既存チームごと買収してくるのは予想外でした。

 まったく伊集院家は無茶をしますねぇw」


内海さんにだけは言われたくないです。と

言いかけたが止めておこう。怖いから。



「それでもロボの改造は禁止されているから

 天使対策は出来ない!つまり我々の勝ちだ!」


「しかし買収されたチームは小規模ながら

 毎回上位に勝ち残る技術者集団です。

 少なくとも大徳寺工業とは比べ物になりません」



現に1回戦、2回戦も危なげなく勝ち抜けている。

風格も感じさせる良いロボなのだ。


「それに伊集院まりぃは性格こそアレですが

 何でもこなせる天才です。何か秘策があるかもしれません。

 油断しない方が良いでしょうね……って、おや?」


内海がこちらに向かってくる”場違いな集団”に

気づいて目を横にやった。



「何……? げっ!」



知奈は思わず逃げたくなった。



「ごきげんよう天使さん。

 あなたの戦い見せていただきましたわ!」



まりぃの後ろにいるメイド服集団は丁寧に

カーテシーで挨拶をする。


抜群の気品と可愛らしさを併せ持つフィフネルガールズ。

噂には聞いてたけど確かに他の店とは

一線を画する人気店なだけはある。



ただ、場違いにも程がある。



エンジェル・ハイロゥの制服でもここでは違和感が強いのに

見るからに高そうなメイド服の集団は罰ゲームで

ここに来ているかのように見えるくらい変だ。


実際に周りのギャラリーは一体何事かと

集まってきているが明らかに距離を取っている。



「おやおや。敵情視察ご苦労さん。

 どうだったかな?我々の戦いぶりは!」


「ふぅん。会長さんのその顔だと記事を読んだみたいですね

 今日はご挨拶に参りましたわ」



メイド達はパンフレットを同好会メンバーに

パンフレットを渡していく。


「ねいね様、どうぞ(ニコッ)」

「ど、どうも……」


短期間で作ったとは思えない豪華なパンフレット。

そしてその中身は……



「うわっ!マジかよ!?」



思わず声を出す岸田と浅野。

流石に開いた口が塞がらない戸坂会長。

おやおやw と苦笑いをする内海。


「ね、ねいねちゃん。これって……」

「う、うん。これは……ヤバイね」



パンフレットにはチームフィフネルの挨拶と

カラーリングを一新して全く違うロボになった

”グリフォン”改め”パラスアテナ”のイメージCG。


そして、豪華且つ実践的な戦闘用ドレスを纏った

伊集院まりぃの全身巨大プロマイド。

おまけにオリジナルソングページへのQRコード入り。

勿論歌ってるのはまりぃ本人だ。



2週間そこらでここまで準備が

出来てるのは伊集院家の力だろうが、

ここまで振り切ってるのは

きっとまりぃが〇〇だからだろう。



「ふふふっ。あまりもの優雅さに圧倒されたようね。

 天使は女神に勝てる訳なくってよ!」



「これは参った! このクオリティは恐れ入った!

 今すぐメルカリに出品してくるわwww」


iPadのカメラで早速出品用の写真を撮る戸坂会長。


「そうだ!いい事思いついた!

 ねいねもオリジナルソング作って売らないか?」


「店長!? いつの間に!」


「ねいねちゃんのオリジナルソング!?

 いいじゃない早く聴きたい!」


「みぅまで何言ってるのよー!」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよあんた達

 この私を無視するんじゃないわよ!」



イライラしているまりぃが口を挟んできた。

そこへ拍手をしながら近づいてくる内海。


「いやー流石伊集院家のまりぃさんです。

 で、私達と戦うとなると決勝戦になりますが」


「勿論知ってるわ。私にとって準決勝なんて準備体操よ。

 私は天使さんを倒す為だけにここに来たんだから!」


「ふぅんw」


笑顔は絶やさないが眼光が光った気がする。

「わかりました。決勝戦でお会いしましょうw」


右手を差し出す内海。


「何であんたと握手しないといけないのよ!

 ……天使さん?あなたは私が決勝戦で

 倒して差し上げますわ」


まりぃは内海を無視して知奈に握手を求めてきた。


「えっ? えーつと……」

「いいじゃありませんか。握手しちゃいましょうw」

「は、はぁ……」



たどたどしく手を出す知奈の手をしっかり掴んで

「だから、必ず決勝戦までいらっしゃい」と

まりぃは”ライバル”へ声をかける。



「い、言われなくとも勝ってみせますよ!」

「ふっ。ふふふっ!面白くなってきましたわ!」


恍惚な表情を見せる伊集院まりぃと

それに激しく戸惑っているねいね。


おそらくこのシチュエーションに

気持ちが昂っているのだろう。


しかし、隣でそれを見ている内海は笑っていない。

そして誰に聞かせる訳でも無く呟く。



「まりぃさん。今、この時があなたの

 一番幸せな時間なのかもしれません。

 あなたは次の試合負けます」


「あなたは準決勝の相手について調べなかったのですか?

 勿体ぶらずに次の試合で私達と戦うべきでしたよ」



その呟きは現実のものとなってしまうのか。

それとも内海の杞憂に終わるのか。



それは2週間後に明らかになる。



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【次回予告】

【10月24日更新!】


そして舞台は一気に準決勝へ!


準決勝の相手は老舗重機メーカーの

小枡製作所。通称「コマス」。


そのコマスが持ち込んできたロボに

追放天使は勝つ事が出来るのか!?


次回 推しVロボ第11話

行ってらっしゃい!もう戻ってこないでね!


お楽しみに!

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