第11話 行ってらっしゃい!もう戻ってこないでね!


ブオオオオオォ!


「このっ……!」



ねいねは突っ込んでくるロボを

ギリギリまで引きつけてぺインド弾を

数発発射するがコックピットの

真ん中に当てるのに苦戦している。


視界を完全に奪えたらかなり有利になるが、

相手のスピードが速すぎて接近出来ないのだ。



準決勝第一試合が始まっ5分。


しかし、追放天使は今までの試合とは違い

攻めあぐねて時間を無駄に消費していた。


準決勝の相手は老舗重機メーカーの

小枡製作所。通称「コマス」


そして持ち込んできたロボは

【DAN-GAN ZZ】という比較的小柄な奴だ。


名前の通りの直線番長で、

2本の腕はあるものの実用性に乏しい。


”ブルドーザーのドラッグレース仕様”と

いうのが一番適切な例えかもしれない。

正面からぶつかってて倒したり足をすくったりして

一気に勝負を決めてくる。


前のヤーマンもそうだったが

本当に重機タイプは厄介だ。


単純かつ単調な攻撃だが、

それだけに相手のペースに飲み込まれたら

極めて危険な事になってしまう。


旋回性や制動力、加速こそ悪いものの

最高速度自体は追放天使を上回っている。

ここまで最高速に全振りしたのは大型ロボ対策だろうか。


対する追放天使の立ち位置は

前回が”モンスターハンター”なら

今回は”闘牛士”というのが正解といえよう。



「残りペイント弾は?」

「右腕弾切れ、左腕4発!」


「そろそろ頃合いですね。始めましょう。

 例のポイントまで行けますか?」

「了解」



追放天使は少しずつ会場の端に移動し、

DAN-GANは狙いをつけるようにゆっくり旋回する。


「さぁ、ついてきてね……!」


ねいねは腰を落としてローラーダッシュの

姿勢を取ろうとしたが、バランスを崩したか

尻餅をついてしまう!



「しまった!」



それを見たDAN-GANはチャンスと見て

エンジン全開で一直線に突っ込んでくる!


急速に接近する2機のロボット!


予想外の展開にざわめく会場!



……



しかし、その光景を戸坂会長は楽しそうに見ていた。



「クククッ……食いついた!」



「今!ワイヤー!ウィンチ!」

「はいっ!」



ねいねは柱にワイヤーを打ち込む!

そしてワイヤーが引っかかった瞬間

ウインチを使い高速移動しつつ

即座に立ち上がる事に成功する。


最高速までスピードの乗った

DAN-GANは急旋回も急制動も出来やしない。


天使にかわされた闘牛はそのまま

柱の間を突っ切ってしまう。



その瞬間、会場からブザー音が鳴り響く!



このブザー音は場外に出た時の警告音。

10カウントでエリア内に戻らないと

負けになってしまう。



「行ってらっしゃい!もう戻ってこないでね!」


「しまった!これが狙いか!」



と慌てるコマスチームを他所に

追放天使はローラーダッシュも使いながら

警察の”KEEP OUT”バリゲートテープのように

広範囲の柱にワイヤーをぐるぐると巻き付ける。


ワイヤーでエリア内に入れないようにして

そのまま場外負けに持ち込む。


これは同好会が当初から考えていた

DAN-GAN対策の一つである。


焦ったDAN-GANはその場で旋回して

近くのワイヤーを切ろうとするが、

スピードが足りず弾かれてしまう。


そして、もうDAN-GANには2回目の

切断チャレンジをする時間は残っていない。



「やはり相手はミスりましたねw

 スピードを殺さず大きく旋回すれば

 切断のワンチャンあったのですが」



内海は笑いながら決着がついた事を確信した。



そのまま10カウントとなり

試合終了のサイレンが鳴り響く!


会場は大歓声で包まれた。



「ふぅ~っ」


ねいねは安堵で胸をなでおろす。

勝てたとはいえ、まともに攻める事が出来ず

もし時間切れで判定になっていたら危なかった。


他に戦い方はないものかしら……


そう考えてしまうねいねだが、

それでも無事に勝つ事が出来たのだから

今はこれで良しとしておこう。


……


追放天使から降りてひと休みしている所に

インタビュアーや記者がやってきた。


「ねいねさん!決勝進出おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「過去試合と比べて苦戦していたようですが

 相手のロボはどうでしたか?」

「とても迫力があって闘牛士になった気分で戦いました」

「なるほど、闘牛士は良い例えですね!」


知奈はインターハイの経験もあり、

3度目ともなるとリラックスして質問に答えていく。


途中までは。



「それではカメラを通してほづみさんに一言!」

「イィッ!?」



予想外の単語に知奈は思わず変な声をだしてしまう。


「あ、いえ……ははは」


困ったような愛想笑いを見せて

何とかはぐらかす知奈。



まさかあの声がマイクで拾われていたなんて……


後日それに気づいた時は夜中に大声をだして

親に怒られてしまった。


案の定、ネットでは「ほづみとは誰だ!」と

一部の特定厨が動いていたらしい。


当然八月朔日(ほづみ)・パトラクシェは

候補の一人に入ってしまったものの、

とりあえず未確定という事になっている。



この絶好のチャンスに全力で

ファンアピールしたい気持ちもあるが、

ほづみ君に色々と迷惑がかかるかもしれない。


今はこのまま戦う私を見てもらうだけでいい。

そう考えている知奈であった。



……



記者達も去り、ようやく自由時間になった。


「それじゃ、第二試合の観戦にいくぞ!」

「あ、そっか。今回は見れるんだね」


今までの試合は後半出場だったから

調整等で直接見る事は出来なかったのだ。


「勝った方が我々の敵となるのだ

 しっかり2機の動きを見ておけよ」


「は、はい!」


知奈は思わず少し声が上ずってしまう。


乗り気では無いみぅが隣にいるというのもあり、

今まではほぼ動画等でしか見ていなかったが

こうやって直接次戦相手の観戦をするのは

流石に緊張してしまう。


……


現在、会場ではエキシビションマッチを行っており、

大徳寺工業とヤーマンが戦っているが、

予想通り悲惨な事になっていた。


「ぅぁ……」

思わず声を出すみぅ。


必殺の大徳寺デンプシーロールを繰り出そうとしても

リーチがあまりにも違い過ぎて中には入れず

クレブスの右フック一発で吹っ飛ばされる。


スピードも特別速くはない激打丸3号に打つ手は無い。

このまま一方的に殴られて終わるか

時間切れで判定負けしか残されていない。



「あれが昨年までのロボバトだ。忌々しい!」



戸坂会長は吐き捨てるように言い、

知奈はなるほどと思った。


創意工夫が無い力押しの戦いばっかなのは

”ワクワク感”が無いのだろうなと。



そう考えながら歩いていると前から

一人のメイドさんが歩いてきた。


「あっ」

「ねいね様。決勝進出おめでとうございます」


「フィフネルガールズじゃないか。

 いいのか?こんな所で油を売って」


「まりぃ様がねいね様をお呼びです。

 よろしければお越しいただけますか?」


「へ?」


「試合まで時間もあるしいいじゃないか。

 折角だし色々敵情視察するといい」


「は、はぁ。なら行ってきます。

 みぅ、また後でね」

「うん!行ってらっしゃい」



知奈とメイドはそのまま

フィフネルチームのピットに

向かって歩いていった。



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【次回予告】

【10月31日更新!】


試合直前の大事な時間に

知奈を控室に迎え入れるまりぃ。


そして、二人きりになった時、

まりぃが発した言葉とは……!


次回 推しVロボ第12話

終わったら二人で乾杯しましょ!


お楽しみに!

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