第9話 さて、モンスターハンターしてくるね
それから二週間程度経過して
ロボバト2回戦当日。
修理や整備でどうしても試合の間隔が
空いてしまうのは安全性を第一とする
ロボバトとして仕方のない事であろう。
ロボットアニメ同好会が会場に入ると
男性達がねいねの周りに集まってきた。
やはり1回戦の反響は絶大らしい。
少し戸惑いながらもファン対応するねいね。
元々こういうのに少し憧れてたから悪い気はしない。
ううん、正直嬉しい。
しかし、今大切なのはロボで戦う事。
そしてほづみ君に私の勇士を見てもらう事。
だからごめんなさい。とすぐに打ち切って
足早にピットに入っていく。
「さて、ここからが本題ですが、ご存じの通り
今日の相手はここからでも見えるあのデカブツです」
内海の言葉に反応するように
メンバー全員が離れにある赤い機械に目を向ける。
満を持して初参戦した重機関係の老舗メーカー
”ヤーマン株式会社”が持ち込んだロボは
【クレブス】というらしい。
ドイツ語で蟹の事らしいが、実際は
言うなれば魔改造した重機集合体。
つまり化け物である。
全高6.3mとルール上限ギリギリのサイズと重量。
主力である超大型ショベルニブラーの右腕と
左腕の近接用の中型ショベルハンド。
更に懐に入られた時の対策として
前面に排除用のブルドーザーまで付けている。
当然ディーゼルエンジン。
足は安心のキャタピラーだ。
「まったくクソ重機が!
そこまでして勝ちたいか!」
忌々しいと毒づく戸坂会長。
ロボとは言えないあの異形はまさに
アニメ同好会が倒すべき敵そのものなのだ。
しかし、勝つ為だけに作られたあの異形は
脅威以外の何物でもない。
今回のロボバトで唯一”あいつ”に
勝てるかもしれないと言われている機体だ。
正直、追放天使とは相性が悪い。
重機型ロボと戦うのは想定内だとしても
限度というものがある。規格外過ぎる。
機動性は追放天使が遥かに上なので
どうにか回り込むのが第一。
そしてワイヤーをいかに巻き付けるかが重要だ。
動きを止めて行動不能にするしか勝つ方法は無い。
しかし、あの大きさ、重さ相手だといかに
超高剛性ワイヤーでもひと巻きでは
持たないかもしれない。
「やはり最初はあの長い腕をワイヤーで
封じるしかないのでしょうか?」
「おそらくそうでしょうが、その場合は
ワイヤーを切りはなすタイミングに
気を付けてください。失敗したらあの長い腕に
振り回されて遠くまで吹っ飛びます」
リーチが長い分、あの腕で”フック”を打たれるのは
想像しただけでも恐ろしい。
『うーん……』
前回とは違って重々しい雰囲気がチームを包む。
みぅは泣きそうな顔でねいねを見ている。
「ねいねちゃん……」
「って、ちょっと待って?
上手くしたら……うん。そうね」
ねいねはバトル会場を見ながら微かに口角を上げる。
「少し怖いけど、ほづみ君に喜んで貰えるなら!」
…
……
………
そして試合は始まった。
大歓声の中で二人の男が不敵な笑みを
浮かびながら握手をしている。
「そちらのご自慢の硬化テクタイトとやらは
私達の圧倒的パワーに耐えられますか?」
「なーに。重機キメラなんぞに天使は潰されませんよw」
『はっはっは!』
二人は大笑いしながら自陣に戻ってきた。
「うわぁ……二人ともマジだったわ」
「会長全然笑っていない。
まるで不倶戴天の仇を見てるかのようだ」
浅野と岸田は戸坂会長に恐怖すら感じていた。
一方、ねいねは柔軟をしながらも
バトル会場の隅から隅まで隈なく
チェックしている。
空間把握が一番重要な事だと認識しているようだ。
そして試合開始のサイレンが鳴り響く!
「さて、モンスターハンターしてくるね」
ねいねは軽快なステップでクレブスに向かっていく。
一方クレブスは動かないで追放天使の動きを見ている。
一回戦の激打丸を意識しているのだろう。
少なくともワイヤーを意識して安易に柱には近づかない筈だ。
「やはり奴は中央に布陣して一歩も動かないか……」
「だから今回はこちらから攻めないといけない訳で」
戸坂と内海もこの展開は予想していた。
そして、ねいねが全ての鍵である事も理解している。
「んじゃ、行きますか!」
追放天使はクレブスの後ろに回り込もうと
接近して相手の攻撃範囲内に入っていく。
……ブオオオオオ!
その瞬間、大排気量のディーゼルエンジンが吠えた。
それに合わせてねいねも姿勢を思い切り低くして
ローラーダッシュの姿勢をとった。
上から来るか、下からか、それとも……
ねいねは次の奴の動きに集中する。
クレブスは身体を旋回させて超ロングレンジの
右腕をフックのようにぶつけてきた!
……上だっ!
ねいねは姿勢を更に下げてモーターを全開にさせ
ローラーダッシュで右腕の下を一気にくぐり抜けた。
「抜けた!」
「ウオオオオオオ!」
観客は一瞬の出来事に大歓声を上げる。
「よし抜けた!そのまま上へ!」
天使はそのまま相手に取り付き
一気に上に登っていく。
1回戦の激打丸とは違いコックピットが
戦車のように旋回式な為、実質前後の概念はない。
その為、攻略が更に難しくなっているが
ねいねは全く別の所を狙っていた。
コックピットを無視して更に上に向かい
天井の上に立つと手を上に向ける。
「……よしっ!」
「あっ。天井か!」
内海はねいねの狙いを理解した。
上限ギリギリまで全高を上げた結果、
天井との距離が相当近くなっていたのである。
ねいねはハンドクリックで両方の手から
ワイヤーを天井に向けて射出した。
「しまった!」
「天井のメインフレームの真下にいながら
一歩も動かなかったのが運の尽きよ!」
相手の狙いに気づいて移動しようとするが
少しだけ遅かった。ワイヤーは天井のフレームに届き
まるで首吊り用のロープになっていた。
「すごい!ねいねちゃん!」
「天井を使うとは考えてなかった!」
同好会メンバーもこの展開に盛り上がる。
しかし、まだ勝負は決していない。
「いや。まだです!」
内海は表情を緩めない。
たしかに移動についてはワイヤーで封じたが
巻き付けたのは2本だけであの巨体をいつまで
捕えられるかわからない。
そして奴の戦闘能力はまだ生きているのだ。
どうにかしてワイヤーを切ろうと
両腕を動かし機体も揺らすクレブス。
「このっ……!」
激しく揺れる足場をものともせず
ねいねはコックピットにペイント弾を撃ち込んだり
追加のワイヤーを射出しようとする。
この光景を見て、なぜ追放天使は動けるのか!? と
応援しながらも観客は驚きの表情を見せる。
体操でインターハイにも出場した事もある
知奈の抜群なバランス感覚と、細かい動きにも
ほぼタイムラグ無しで忠実に反応する
追放天使の柔軟さ故に出来る神業である。
……ガチィン!!ギギギ
揺れる足場に少し苦戦しながらも
3本、4本、5本とワイヤーがクレブスに絡みついていき、
クレブスは段々身動きが取れなくなっていった。
これでほぼ勝敗は決したかと思われたが、
安心したからかねいねはバランスを崩してしまう。
「やばっ!」 と一旦大きくジャンプして
姿勢を整えようとした瞬間、大きく振った
クラブスの左腕が一直線にねいねに向かっていく!
「!?」
「危ない!」
「ねいねちゃん!」
思わず叫ぶ同好会メンバー!
「……もうっ!」
ねいねは向かってくる左腕をまるで
体操の鉄棒みたいに掴み、そのまま
機体を振り綺麗に着地する事が出来た。
「み、見たか今の」
「ロボが体操しやがった……!」
「どれだけ動けるのよアレ!?」
「信じられない……」
「すげええええ!」
どよめく観客とヤーマンのメンバー。
そして同好会メンバーも驚きを隠せなかった。
ねいねと追放天使のコンビネーションは
想定以上の性能を発揮していたのである。
その後、無数のワイヤーに捕らわれた
クレブスはもがく事しか出来ず、戦闘不能とみなされ
そのまま終了のサイレンが鳴り響く!
ウオオオオ!と会場から大歓声が巻き起こり、
ねいねも作戦が成功した嬉しさからか
喜びの声を上げた。
「やった。やったよ!ほづみ君!」
一度推しの名前を口に出してしまったら
知奈はもう止まらない。
「ほづみくーん!!」
なお、この声がマイクに拾われた事を
知奈が知るのは後の話である。
…
……
………
その後、下馬評をひっくり返して二回戦も勝利した
同好会チームは当然大勢のカメラや取材陣に取り囲まれて
質問攻めを受ける事になる。
「ふぅっ。ようやく終わったかな?」
インタビューがひと段落ついて安堵している
知奈の横で他のメンバーが突如大騒ぎし始めた。
「わっはっはっはっは! これは傑作だ!」
「本当にやりましたねぇ!w」
「えぇっ……!?」
どうやら皆はiPadを見て盛り上がってるらしい。
「?」と思い画面をのぞき込んだねいねは
予想外の出来事に思わず大声を出した。
「な、何でそうなるのーっ!?」
iPadの画面に映っていたのは
伊集院まりぃ率いるメイドバー
「フィフネル」のロボバト急遽参戦の速報である。
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【次回予告】
【10月17日更新!】
突如ロボバト参戦を表明した
フィフネル!
そして唖然としている
知奈の前に現れる伊集院まりぃ。
彼女の計画と目的は……!
次回 推しVロボ第10話
い、言われなくとも勝ってみせますよ!
お楽しみに!
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