第8話 勝手にライバル認定されても困るんですが

「うわっはっはっは!」

「はっはっは!」



戸坂会長と店長の笑い声が店内に響く。


追放天使のデビュー戦より数日が過ぎ、

ここエンジェルハイロゥは大賑わいだ。


理由は勿論先日のねいねである。



「いやーここまで大成功するとは

 思ってなかったよ!ねいねの

 スポンサーになってよかった!」


「言ったでしょ店長。ねいねちゃんは

 とっても凄いんだから!」


「ローラーダッシュの切り抜き動画がバズったのが

 大きかった!まるでアニメの1シーンだった」


「その後の肉弾戦なんてロボバト初でしょう。

 とてもセンセーショナルでしたね!」



周りが盛り上がる中、内海だけが

冷静な判断をしていた。


「今回、理想的な対戦相手で良かったです。

 これで最低限の目標は達成出来ましたよw」


一見、謙遜にも聞こえるが

実際の所その通りなのだ。


追放天使はルールと主流派の隙をついた

言わば"一発ネタ"みたいなものだ。


今大会のルールでは大会途中での改造は

認められていない。それが追放天使には

大きなアドバンテージになっている。


もし、改造可能だったら対策を取られて

2回戦で敗北必至だったであろう。

それくらい相性が重要になるロボなのだ。



「それでは2回戦は勝てないと?」

「そうは言っていませんが、次は少し厄介です」



店長の質問に答える内海。

次の相手も想定内ではあるが、規格外。

誇張抜きに"モンスターハンター"を

しないといけない相手なのだ。


「やはり勝利の鍵を握るのはねいねです。

 追放天使はパイロット次第でどこまでも

 強くなれるのです」


「そういえばねいねちゃんは?」



みぅが店内を見渡すと、カウンターの端で

スマホ見ながらニヤニヤしていた。



「あ。まただ。」

先日のバトルが放映されてから

知奈はずっとこの調子なのだ。


……

………


「ねぇ、みぅ聞いて聞いて!

 ほづみ君が私を”可愛い”と言ってくれたの!」


今まで見た事無いようなニヤケ顔をしながら

ねいねちゃんは私に話しかけてきた。

どうやら昨夜の配信でロボバトの話題になったらしい。



『あの開会式パフォーマンスは正直少し引いたけど、

 実際のバトルを見て興奮しちゃったよ!』


『口だけではなく実際に打ち勝ってくれたし、

 あんな可愛い女の子が縦横無尽に戦うなんて

 アニメみたいだった。本当に最高だった。

 早く第二回戦も見たいな!』



とか言ってたらしく、それからねいねちゃんは

何回もそのシーンを見返している。


「ほづみ君。ほづみ君。私、次も頑張るから!

 どんな相手でも勝ってみせるから!」


まぁ、モチベーションが上がるのは良い事だし

楽しそうなねいねちゃんを見ると私も嬉しい。



「うん。次も頑張ってね。私も応援するから!」

「ありがとうみぅ!私、頑張る!」


『おーっ!』


………

……


そして今に至る。


推しにそう言われて幸せなのは

良くわかるけど、仕事にも支障出てるし

そろそろ落ち着いて欲しいな……


ついため息をついてしまうみぅだが

その瞬間、カランカランッと

入口から心地良い音が聞こえてきた。


今日は本当にオープンから盛況だ。


「はい。おかえりなさい……っ!?」



みぅは入ってきたお客様を見た瞬間

思わず大声を出してしまった。


「ん?一体なんだ……おぉっ!」

近くにいた客も同様に驚いている。



「ふぅん。この安っぽい雰囲気といい

 何もかわっておりませんね」



見るからに高級で着こなしの難しい

ロリータドレスをサラッと着こなす女性は 

すぐに店中の注目になった。



「い、伊集院まりぃ!?」



キッチンから出てきた店長は

その女性を見ると大声をあげた。


「あら。お久しぶりね店長さん」

「な、何しに来たんだお前……!」


どうやら昔に何かあったのだろうか。

店長は明らかに嫌そうな顔を見せている。


そして、もう一人女性に反応した男がいた。


「おや、珍しい人が来ましたねーw

 このお店は大嫌いじゃなかったのですか?」


「げ。内海までいやがりましたか。

 来るタイミング間違えたかしら」


いきなり口が悪い。

何か色々いわくつきな女性らしい。


「店長、この人どういう人なんですか?」

みぅは思わず店長に尋ねた。



「あぁ。こいつは伊集院まりぃ。

 ここに1日だけ体験入店した疫病神だ」


「あらご挨拶ねー。私がお店で働くという事が

 どれだけ光栄な事かわからないのですか?」



名家である伊集院家の末っ子であり、

内海に負けず劣らずの「御令嬢」らしい。


「で、最近オープンさせたメイドバーでしたっけ?

 評判らしいけど売れ行きはどうですか?w」


「おかげさまで繁盛してるわ。こんな店なんて

 人材から設備、備品まで全てを1流で揃えた

 私の店の敵じゃない……筈だったわ」


わずかに表情を曇らせる伊集院まりぃ。


「だった?」


内海は一瞬だけ見せた彼女の珍しい

表情に少し驚いていた。



「……ところでっ!あの娘はどこにいるのかしら?」


「あの娘とは?」


「あの娘はあの娘よ!あの追放天使とかいう変な名前の!」


「ねいねちゃん?ねいねちゃんは向こうに……」



みぅが指さした先には相変わらず

スマホ見てニヤニヤしているねいねがいた。


「…………へっ?」


まりぃはそのねいねの姿を見て呆然としていた。


「まさかこんなちんちくりんがあの天使なの!?」


まりぃは苛ついた感じでカウンターの中に

ズカズカと入り込みねいねの前に立ち塞がった。


その気配に気づいて顔を上げると

凄い美人さんが目の前に立っていて

ねいねは状況が掴めないで戸惑っている。



「は……はい?」


「はじめまして天使さん。私は伊集院まりぃ。

 あなたに会いにわざわざ来てあげたわ」


「い、いえ私は天使じゃなくて……」

「この前の試合を見たけど中々やるじゃない」


ダメだこの人、全然人の話を聞かない

戸坂さんタイプだ。


「しかし私に挑もうとは10年早いわね」

「……」


「一つ聞いていいかしら?あなたは何故

 あんなロボに乗って戦うの?」


「え……? それはロボバト好きの

 推しに私を見て貰いたくて……」



「は?何言っているの??」



まりぃは更に険しい顔になった。


「あなたはスターになりたくないの!?

 あんな凄いパフォーマンスをしてるのに

 そんなちっぽけな夢でいいの!?」


「……」


駄目だ。何言ってるから全然わからない。

また変な事に巻き込まれている。



「決めたわ。あなたは今から私のライバルよ!」



勝手にライバル認定されても困るんですが……


「ちょっとばかし可愛い顔しているからって

 私が本気になったらあなたなんて雑魚よ!」


「可愛い……可愛い!?」


駄目だ。今その単語聞くと表情が

ニヘラと緩んでしまう。



ニヘラ。



「何よそのふざけた表情!許せない!

 目に物見せてあげるわ!覚えておきなさいよ!」


まりぃは怒りながら店から出て行ってしまった。



…………何なの?



「あーあ。厄介な奴に目をつけられちゃいましたねw」


内海は苦笑いしながらねいねに言った。



「え?私は何もしてませんが!?」


「彼女は性格以外は凄い人ですからねぇ。

 きっと何かしかけてくると思いますよw」



えぇぇぇぇぇ……


「良い。全く良いではないか!

 この燃える展開もロマンである!」


戸坂会長も横で勝手に闘志を燃やしている。



「何でこうなるのー!!!」



エンジェル・ハイロゥの店内に

ねいねの声が響き渡った。


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【次回予告】

【10月10日更新!】


舞台は一気に二回戦へ!


左右に大小ショベルを持ち

正面にはブルドーザーという

巨大な”重機キメラ”を相手に

追放天使はどう戦うのか!?


次回 推しVロボ第9話

さて、モンスターハンターしてくるね


お楽しみに!

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