第5話 棲みたい街
§1 あるカップルのケース
妖怪ホームがオープンし、また、研修センタ―の受講者が引きも切らず、妖怪ランドはかつての賑わいを取り戻しつつあった。
ピヨピヨ寛道にお客があった。
「その節は、大変お世話になりました」
妖怪のカップルだった。
そのカップルはある夜、国道の橋のたもとに新生児を捨てた。ミルクとオムツを置いて離れようとするところをバスターズに見つかってしまった。移動スナック「百夜鬼」で深酒しての帰りだったのだ。
「こんなところ置き去りにして、クルマに
モンキはたしなめた。
ドクは捨て犬の経歴があるので、子供が可哀そうでならなかった。抱いてやった。安心したのかスヤスヤと寝息を立てている。
「ええかげんにしときや。
カップルはセンターに通った。中級の修了書を授与され、晴れて正妖怪に認定されたという過去があった。
「で、今日は何の用事や?」
ピヨピヨ寛道は訊いた。
「ここは第二の故郷だと思っています。移住したいのですが、ファミリー向け住宅はありますか」
ピヨピヨ寛道はすぐ王国の移住促進支援課に電話を入れた。つくづく、教育の大切さを実感した。
「それから、私の友達が不眠症で悩んでいて、私の経験を話したところ、先生の講義をぜひ受けたいって」
§2 マスコミの脚光
妖怪ランドはよくマスコミで取り上げられるようになった。
過疎化、消滅集落の話題になると、必ずと言っていいほど、王国に取材が入った。不勉強な取材クルーは最初、わが目を疑った。明るく元気な妖怪たちが村にあふれていたからだ。
「エキストラでしょう」
「どこかの村から集めて来たのでしょう」
「人間に妖怪の着ぐるみかぶせてるのでしょ」
などと疑いの目を向けた。過疎にあえぐ、暗い番組に仕上げたかったのだろう。ピヨピヨ寛道などは最初、前日に散髪屋に行っていたが、「狙った絵じゃない」などと言って、髪をボサボサにされてしまった。
取材のある日は何かと理由をつけ、ジキータたちは奥三足村でゴロゴロしていた。仮にTVに出たとして、ドヤ街の三密酒場でママやおやじさん、常連客が見ていると思うと、顔が真っ赤になるからだった。
故郷の放送を見て、都市部にある「徳島妖怪会」いわゆる県人会からも問い合わせが増えた。取り組みを講演してほしいという。Uターンを促進するには願ってもない機会だった。
講師にはピヨピヨ寛道が派遣された。寛道は「正しい異性交遊」について話したいと言い張ったが、ジキータたちの説得で思いとどまらせた。不眠症の妖怪たちはがっかりしたかも知れない。
不動産会社がよく実施する「棲みたい街」のアンケートでも、時々、妖怪ランドが上位に紛れ込むことがあった。「人間の居住には適さないところもあります」と注意を付けたが、拡散に歯止めがかからなかった。
§3 龍神の接待
妖怪や人間の出入りが激しくなり、龍神もそわそわする日が増えた。雲を呼んで極秘に外出し、慌てた側近たちがあやうく防災無線で呼び出しそうになる一幕もあった。
ピヨピヨ寛道がバスターズに訊いた。
「みなさん、今夜の予定は?」
バスターズは暇だった。
「実は、龍神がみなさんにご馳走したいと……」
ピヨピヨ寛道も性格が悪い。「もちろん、ヒマです」などと言ってしまった手前、取り消せない。
一日中、気が重かった。
龍神はドレス姿で現れた。移動スナック「百夜鬼」は、この夜、第三者は出入り禁止、カラオケは片づけられ、荘厳な音楽が流れていた。
ママのおとめさんは緊張の連続だった。
「さあ、貴殿たち、今日は龍神のおごりでござる。遠慮なく召し上がられよ」
ピヨピヨ寛道は
龍神がバスターズに酌をしてくれた。
「ご苦労ね。よくやってくれています。寛道から貴殿たちの報告は逐一受けております」
「ハハーッ」
バスターズは
§4 バスターズ、雲に乗る
「鍼灸師の山谷先生はお元気ですか?」
なんともリラックスした話題になった。
「いい方たちを紹介していただき、感謝しています。よしなにお伝えください」
バスターズには詳しい話は分からなかった。しかし、龍神と鍼灸師が繋がっていることは理解できた。
「昔ね、往診の帰りに、『百夜鬼』によく寄ってくれたわ。世の中、どうにもならないことだってあるもんね」
よくわからないが、バスターズはとりあえず相槌を打っておく。
「あら。もうこんな時間? 奥三足、遠いわね。寛道、雲を呼んであげて」
奥三足までひとっ飛びだった。
バスターズは飲み直した。
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