(174)別れの予兆

 「人生には出会いと別れしかない」


 そんな言葉を、昔務めていた会社の上司が送別会の時に言っていた。


 当時大阪の会社に勤めていた僕の上司は、東京の本社から単身赴任で大阪に来ていた人だった。


 阪神大震災の復興活動に関連する部署にいた僕だったが、復興活動が一区切りついたところで組織は解散する事になり、部長だった人が東京に戻るというので送別会を行った訳だ。


 いい上司だったなと今でも思うが、復興活動が進むにつれて「いずれこの人は東京に帰っちゃうんだよな」という心の準備は出来ていたのもあって、その上司との別れは残念ではあったが、ショックを受けるような事は無かった。


 何で今更そんな事を思い出したのかと言うと、先日とある顧客から大規模な入札への参加依頼があり、それを僕が取引するメインの代理店に話をしたのだが、案件の規模が大きすぎるのと「利益率が低いし参加したくない」などと言われた訳だ。


 なるほど、その代理店は僕に営業活動を委託しており、数年に渡る赤字経営を改善する為の受注を沢山とってきたおかげで前期はやっと黒字に転換できた訳だが、黒字になった途端に「利益率が~」と言い出すのか。


 確かに今回の入札は数千万の規模だし、利益率はおよそ12%と低い。


 その顧客には昨年だけで年間2千万程売り上げたが、代理店の利益は240万しか無いもんな。


 でも、仕事は全て僕が行っている訳で、その代理店は伝票を発行するだけで年間240万を稼ぐ事ができる仕事だった訳で、それを「規模が大きすぎるし利益率が悪い」というのは残念な話だ。


 僕がその代理店から貰っている月々の報酬はたった9万円。


 年間108しか報酬を貰っていないのだから、240万の利益を出すだけでも御の字な筈だ。


 しかも、僕はその顧客以外にも沢山の顧客から受注できる様にしているので、実際には年間5000万以上の売り上げを取ってきており、代理店の利益は少なくとも500万以上ある訳で。


 なのに、この対応とは・・・


 これは「別れの予兆」だな。


 と、僕はそう思ってしまった訳だな。


 そのせいで、冒頭に書いた過去の部長のセリフを思い出してしまったのだろう。


 そんな折、今日の午前に顧客から僕の携帯に直接連絡が来た。


 その顧客はこれまでの僕の仕事を高く評価してくれている様で、


「今回の入札には是非参加して欲しい。他にも数社に依頼はかけているが、貴社のサービスレベルに私達は全幅の信頼を置いているので」


 との嬉しいお言葉を頂いた訳だ。


 ここまで言われちゃ放っておけないよな。


 という訳で、別の代理店に入札参加の意志を確認したところ、「是非参加したい!」という会社があったので、そこと組んで入札に参加する事にした。


 この顧客の案件だけでもざっと数千万の売上だ。


 実際に仕事をする僕は大変だろうけど、その代理店はこれが受注できれば数百万円が伝票発行だけで儲かる事になるだろう。


 ここまで条件が揃えば、もはやこれまでメインで仕事を繋いでいた代理店との「別れ」は、本当に実現してしまうのかも知れない。


「頑張って生きていれば、必要な時に、必要な協力者が現れるものだ」


 そんなセリフを、昔読んだ漫画で見たのを思い出した。


 明日の朝が入札期限。


 今から2社分の入札提案資料を作らなければならない。


 今夜は徹夜する事になりそうだな。


 全力で頑張るとするかな。


 全力で頑張れば、必要な助けがある筈だから。


 うん、きっとある。


 という訳で、僕は今から明日の朝までぶっ通しで仕事しようと思うのです。


 頑張るぞ~!

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