(148)インボイス

 とうとう10月になり、僕の本業の方は事務作業でてんやわんやの状態になっている。


 その原因は政府によって施行された「インボイス制度」というものなのだが、これは内容を突き詰めると、実はとんでもない制度だという事が分かってくる。


 音楽やアニメ業界ではインボイス制度によって3割くらいのアーティストや声優などが廃業に追い込まれるかも知れない等という噂もあるが、確かにこれは僕も実感として「それくらいの割合で廃業する人がいるかも」と思える数値だ。


 僕は元々消費税を納税する「課税事業者」なので、インボイス制度に登録して登録番号を得ているのだが、だからといって僕に何の影響も無いかというと、実はめちゃくちゃ影響がある。


 例えば顧客と喫茶店で打合せたとしよう。

 そこでコーヒー等を注文して、1000円くらいかかったとする。


 で、業務の為の打合せでコーヒーを注文した訳だから、領収証を貰えば、そのコーヒー代金は「経費」として計上出来る訳だが、もしその喫茶店の領収証にインボイス番号が記載されていないと、その喫茶店に支払った金額の1割近くを、消費税として僕が税務署に納めないといけなくなるのだ。


 他にも、業務委託先の個人事業主から届く請求書が5万円だったとして、これまではそのうちの10%は僕がその委託先に消費税分ごと支払った事になっていたのに、今月からは委託先がインボイス制度に登録していない場合は、僕がその分を税務署に納めないといけなくなるのだ。


 となると、経済的に貧しい僕の様な個人事業主は、他人の分の消費税を支払う体力がある訳も無く、結局は他の「課税事業者」に作業を委託しなくちゃならなくなる訳だ。


 コレって、僕も苦しいし仕事が貰えなくなる業者も苦しくなるよね。


 そもそも消費税を「消費者が買い物する際に業者に支払っている、業者にとっては預り金だ」という解釈をしている人が多い様に思われるが、法的には実はそうではない。


 法的に正しい解釈とは、「事業者が売り上げた額の9.1%を、その事業者が納める税の事で、これを消費税と呼ぶ」というものだ。


 つまり「売上税」というのが正しくイメージする為の呼び名なのだが、何故か「消費者が負担しているイメージ」になる「消費税」という名で、これまで定着してきた訳だ。


 これにより僕は、これまで内職作業を委託していた人に仕事を出せなくなり、より高額な作業費がかかる業者に委託せざるを得なくなる。


そうなると僕は、販売価格を上げるか、または利益を削るかの選択に迫られているのが現状な訳だ。


販売価格を上げれば顧客の負担が増え、もしかしたら顧客が他の業者に発注するようになってしまうかも知れない。


僕の方で利益を削って販売しても、その負担を僕が負う訳だから、単純に生活が苦しくなる。


内職の委託先にインボイス制度に登録させると、今度は委託先が苦しむ事になる。


 うーん、困った。


 内職をお願いしていた委託先の人の年商なんて、たかだか200万円程度だろう。


 苦しい生活を少しでも楽にする為に僕の仕事を手伝ってくれていたのに、インボイスに登録させてしまうと、年間20万円くらいの消費税分の負担を、その人に押し付けてしまう事になる。


 委託先の中には母子家庭もあり、それこそギリギリの生活をしているのに、利益を1割近く削られて、マトモに生活出来るのだろうか…


 どうにも僕の心中は穏やかではないな。


 そんな中、経団連は「消費税をもっと上げろ」と政府に圧力をかけているらしい。


 今でも中小企業は雇用する余裕が無くて厳しい状態なのに、消費税が上がれば更に雇用が厳しくなる。


 経団連とは何なんだ?


 経団連の言いなりの自民党とは何なんだ?


 日本は一体、いつから資本家に支配されてきたんだ?


 色々思う事はあるが、とにかく今の日本政府じゃ僕は幸せになれそうに無いので、早く衆院解散して選挙をし、我々庶民を救ってくれる政治家を当選させたいものだ。


 さて、まだまだ仕事は山積みだ。


 今日はそんな怒りを原動力に、仕事を頑張ろうと思うのです。

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